君との想い出が風に乗って消えても(長編)




 僕は、そう言って加恋ちゃんのことをそっと抱きしめた。


「加恋ちゃんは何も心配しなくてもいいよ。こうして加恋ちゃんと一緒にいることが僕の幸せだから」


「……優くん……」


「あと、愛美ちゃんのこともね、僕にとって愛美ちゃんは幼なじみ。それ以上でもそれ以下でもないよ」


「……優くん……ごめんね……わたし……」


「いいよ、加恋ちゃん、何も言わなくて」


「……優くん……ありがとう……」


「加恋ちゃん……」



「おっ、お熱いねぇ~、お二人さん」


 ……‼


 僕は声がする方を恐る恐る見た。


「な……なんで……⁉」


 そこには同じクラスの男子たちがいた。


「もぉ~、草野くん♡ そんなに見せつけないでよぉ~♡」


 僕は頭の中がパニックになった。

 パニックになり過ぎているせいか、僕は加恋ちゃんのことを抱きしめたまま身体が固まって動かなくなってしまった。


「な~に~、草野くん♡ そんなに加恋ちゃんと離れたくないのぉ~♡」


 ニヤニヤしながら言ってくる男子たち。


 僕は、ますますパニックになって、どうすればいいのか困ってしまった。





「……そ……そんなに見ないでよ」


 やっと出た言葉がそれだった。


 加恋ちゃんを抱きしめているところを男子たちに見られて僕は恥ずかしくなってきた。

 そのせいか、顔に集中して血液が集まってきたかと思うくらい僕の顔は熱くなっていた。


「あぁ~、草野くん、顔真っ赤、か~わい~い~♡」


 そんな僕をさらに茶化す男子たち。


 もうこれ以上どうすることもできない‼

 そう思ったとき……。


「わたしは優くんと一緒にいることができて幸せです」


 加恋ちゃんが、加恋ちゃんのことを抱きしめている僕の腕をそっと離してから、男子たちの方を見てそう言った。


「「「おぉぉ~」」」


 加恋ちゃんの言葉に男子たちが感心するかのようだった。


「じゃあ、帰ろう、優くん」


 そこには笑顔の加恋ちゃんがいた。


 僕は、そんな加恋ちゃんのことを見て幸せな気持ちになった。


「それじゃあ、みなさんまた明日学校で」


 加恋ちゃんは男子たちにそう言った。


「お、おう、また明日」


 男子たちは加恋ちゃんの落ち着いた言動に、あっさりとおとなしくなった。







 いつもの帰り道。

 いつもの加恋ちゃんと一緒に帰ること。

 そんなささやかな幸せ。

 ありがとう、戻ってきてくれて。

 加恋ちゃんが戻ってきてくれたこと。

 本当にありがとう、加恋ちゃん。













 クリスマス








 12月25日。



 今日は加恋ちゃんと恋人同士になって初めて過ごすクリスマス。



 今日もいつものように待ち合わせ場所の公園に行くところ。


 公園に行くまでの道のり。

 僕は、その道を歩きながら周りを見渡す。

 今日はクリスマスというのもあってか、心なしかカップルが多いような気がする。


 そうして僕が周りを見ながら歩いていると……。


「優くん‼」


「加恋ちゃん」


 公園に行く途中の道で加恋ちゃんと会った。


「公園に着く前に少しでも早く優くんと会えて嬉しい」


 加恋ちゃんがとびきりの笑顔で可愛らしく言った。


「僕も少しでも早く加恋ちゃんに会えて嬉しい」


 僕は、そう言って加恋ちゃんの手をやさしくつないだ。





 加恋ちゃんと手をつないで歩く道。


 そこには穏やかな時間が流れている。


 穏やかな時間が流れている僕と加恋ちゃんのすぐ横をカップルが通り過ぎる。


 今、僕と加恋ちゃんの横を通り過ぎたカップルから見ても、僕と加恋ちゃんも一組のカップル。


 そして、カップル以外にもいろいろな人たちがいる。


 親子連れや友達同士、外回りをしているサラリーマン、ベンチでゆっくりと座っているお年寄り、犬を散歩している人、他にもいろいろな人たちがいる。


 僕と加恋ちゃんは、その中をゆっくりと歩いている。





 今日は加恋ちゃんとどこに行こう。

 加恋ちゃんと行きたいところはたくさんある。

 行きたいところはたくさんあって迷うけど、加恋ちゃんとならどこに行っても楽しい。

 だから……。


「加恋ちゃん、どこに行きたい?」


 僕は加恋ちゃんにどこに行きたいか訊いた。


 すると加恋ちゃん。


「わたしが行きたいところでいいの?」


 遠慮気味の加恋ちゃん。


「もちろん。加恋ちゃんの行きたいところを教えて」


 僕は加恋ちゃんにそう言った。


「ありがとう、優くん」


 笑顔の加恋ちゃん。


「どこに行きたいかな……」


 加恋ちゃんは、どこに行きたいか考え始めた。


 加恋ちゃんがどこに行きたいかを考え始めてから数分経った。

 そして……。


「……じゃあ……映画観に行きたい」


「うん、いいよ、行こう、映画」


「ありがとう、優くん」


 そうして僕と加恋ちゃんは映画を観に行くことにした。







 そして映画館に着いた。


 席は一番後ろの席。


 僕と加恋ちゃんは席に座り、売店で買ったジュースを飲んでいた。


 そうしている間に映画が始まった。


 今日、僕と加恋ちゃんが観る映画はラブストーリー。

 素直になれない女の子が甘え上手の男の子に振り回されるという話。

 でも最終的には、なんとか付き合うことができてハッピーエンドに終わった。

 全体的にはラブコメで、とても面白かった。

 とても面白いラブコメも加恋ちゃんと一緒に観ているから、より面白く感じた。





 そして映画館を出た、僕と加恋ちゃん。


 僕も加恋ちゃんも、そろそろお腹が空いてきたからファーストフード店でハンバーガーを食べることにした。





 ファーストフード店でハンバーガーを食べている僕と加恋ちゃん。


 僕と加恋ちゃんは窓際の席に座っている。


 僕はハンバーガーを食べながら窓の方を見つめた。


 外は、いろいろな人たちが歩いている。


 その中でも目に入ったのが……。


 仲睦まじく歩いているカップルたち。


 その様子を見た後で僕は外に向けていた顔を店内に戻した。


 そして向かいに座っている加恋ちゃんの方を見た。


 僕が加恋ちゃんの方を見ていると加恋ちゃんが僕の視線に気付いた。


「どうしたの? 優くん」


「あ……ううん、なんでもない」


 僕の目の前に座ってハンバーガーを食べている加恋ちゃんがものすごく可愛くて見つめていた……というのは恥ずかしくて言えなかった。