君との想い出が風に乗って消えても(長編)




「だから笑って、加恋ちゃん。加恋ちゃんには笑顔が似合うから」


 いつだって加恋ちゃんには笑顔でいてほしい。

 そして僕は、そんな加恋ちゃんの笑顔を見ると幸せな気持ちになる。


「優くん……」


「ねっ」


「優くん……ありがとう」


 加恋ちゃんは僕にとびきりの笑顔を見せてくれた。


 そして僕は、そんな加恋ちゃんのことをやさしく抱きしめた。


 そのとき僕は加恋ちゃんに謝ろうと思っていることがあった。


 それは、さっき僕が一方的に加恋ちゃんに……。


「……加恋ちゃん……さっきはごめんね……僕、自分の気持ちを一方的に加恋ちゃんに……」


 加恋ちゃんのことを好き過ぎてのこととはいえ、急にあんなこと……。


「優くん、謝らないで。……わたし、優くんの気持ち嬉しかったよ」


「加恋ちゃん……」


「わたしの方こそ、ごめんね。優くんの気持ちを突き放すようなことをして」


「加恋ちゃん……」


「わたしは優くんとこうしているだけで幸せ」


「僕もだよ、加恋ちゃん」


「優くん……」





 この後も僕と加恋ちゃんは、いろいろな話をして過ごした。





 * * *


 そろそろ加恋ちゃんが帰る時間になって僕は加恋ちゃんのことを送って行こうと一緒に家を出た。


 加恋ちゃんのことを送っていくときも僕と加恋ちゃんは手をつないで歩いていた。


 加恋ちゃんと一緒に歩く道のり。

 僕は加恋ちゃんと一緒に歩くことができて、とても幸せに感じていた。


 とても幸せに感じながら歩いていると、あっという間にさっき加恋ちゃんと待ち合わせていた公園が見えてきた。


「優くん、わたしはここで大丈夫だから、ありがとう」


「えっ、送ってくよ」


「ううん、大丈夫、ありがとう」


「そっかぁ、うん、わかった」


 本当は加恋ちゃんのことを家の前まで送って行こうと思ったけど、あまりしつこく言わない方がいいのかなと思って家の前まで送っていくことを諦めた。


「優くん、今日はありがとう」


「こちらこそありがとう、加恋ちゃん」


「また明日、部活でね」


「うん……」


 加恋ちゃん……。


「……優くん……?」


「……離れたくない……」


 また明日会えるのに……。





「僕、加恋ちゃんと離れたくない」


 僕は、そう言って加恋ちゃんのことを抱きしめた。


「……優くん……」


「加恋ちゃん……」


 僕は加恋ちゃんと離れたくない。


「……わたしも……優くんと離れたくない……」


「……加恋ちゃん……」


「優くんと離れたくないけど、また明日、優くんと会える楽しみがある」


 ……加恋ちゃん……。


「その楽しみがあるから、わたしは今日も明日も明後日も元気でいられる」


 僕もそうだよ。

 僕も、これからもずっとずっと加恋ちゃんに会えることを思うと元気が出てくる。


「……僕も……加恋ちゃんとこれからも会えるというのを楽しみにしていると元気が出てくる」


「優くん……」


「ごめんね、加恋ちゃん、引き留めてしまって」


「謝らないで優くん。優くんの気持ちすごく嬉しい」


「加恋ちゃん……」


「今日は本当に楽しかった。ありがとう、優くん」


「僕も楽しかったよ。ありがとう、加恋ちゃん」


「じゃあ、また明日学校でね」


「うん、また明日学校でね」


 こうして僕と加恋ちゃんは、それぞれの家に帰って行った。













 ドキドキの野外合宿








 二学期になった。



 いつものように朝になり、一日が始まる。

 ベッドから起き上がって、いつものように植物たちに挨拶。

 いつものように支度をする。

 いつものように朝食を食べる。

 いつものように家を出て、いつもの通学路を通って通学する。

 そしていつものように学校に入る。

 上履きに替えて、いつものように教室に入る。

 教室には、いつものクラスメート。

 そしていつものように授業を受ける。

 こうしていつもの一日が過ぎていく。


 ただ。

 こうした日々の中で、一学期のときとは違うことが一つだけある。





 それは僕と加恋ちゃんが恋人同士になったということ。


 僕と加恋ちゃんが恋人同士ということはクラスメートには言っていない。


 特に加恋ちゃんとそういう話をしたわけではないけど、お互い自然に言わないようにしていた。


 ……だからだと思う。



 昼休みのこと。


 男子たちが加恋ちゃんに話しかけている。


 ただ話しかけているわけではない。


 なんか……親しく……ではない。

 ……馴れ馴れしく‼


 僕は男子たちと話している加恋ちゃんの方を見た。


 加恋ちゃんは愛想笑いだとは思うのだけど……笑顔で男子たちと話していた。


 その様子を見て僕の心は激しく乱れた。


 僕の加恋ちゃんが他の男子たちと笑顔で話している。


 加恋ちゃんの笑顔を他の男子たちも見ている。


 僕は、それがたまらなく許せなかった。


 だからといって今、僕が他の男子たちに「加恋ちゃんは僕の彼女だ‼」なんてそんなことを言う勇気がない。


 僕は他の男子たちと笑顔で話している加恋ちゃんをただ見ているしかなかった。





 * * *



 授業が終わって部活の時間。



 僕は昼休みのあの出来事が頭から離れずにいた。


 頭から離れなかったせいで僕はモヤモヤした気持ちで作業をしていた。


「どうしたの?」


 僕の様子が表に出ていたのか、加恋ちゃんがそう訊いた。


「なんでもないよ」


 僕は加恋ちゃんに噓をついた。


「本当? なんか疲れてるみたいだから」


 加恋ちゃんは僕のことを心配してくれていた。


「本当に大丈夫だよ、ありがとう」


 僕は加恋ちゃんのその気持ちは嬉しかった。





 部活が終わって後片付けをしているところ。


 そして僕は片付けた物を倉庫に返しに行くところ。


 確か加恋ちゃんも倉庫に行ったはず。


 そして倉庫に着き、中に入ったら加恋ちゃんがいた。


「加恋ちゃん」


「優くん」


「僕も返しに来た」


 僕は片付けて持ってきた物を加恋ちゃんに見せた。


 加恋ちゃんは笑顔だった。


 ……笑顔……。


 僕は、また昼休みのことを思い出してしまった。


 昼休みのときに他の男子たちと笑顔で話していた、加恋ちゃん。





 確かに人と話しているときに無愛想というわけにはいかない。


 ……ただ……別に笑顔で話さなくても……と思ってしまう。


 無愛想はまずいかもしれないけど、普通の表情でいいのではと思ってしまう。


 女子たちになら笑顔で話してもいいけど、男子には……。


 他の男子たちには笑顔で話してほしくない。


 加恋ちゃんの笑顔を他の男子たちには見せたくない。


 僕だけが加恋ちゃんの笑顔を独占したい。


 そう思ったら……。


 僕の手は動いてしまっていた。


 まず倉庫の扉を閉め……。


 その後、加恋ちゃんに……。





「優くん⁉」


 僕は後ろから加恋ちゃんのことを抱きしめていた。


「優くん⁉」


 僕の突然の行動に加恋ちゃんは驚いていたけど、僕はそのまま加恋ちゃんのことを抱きしめ続けた。


 そして僕は抱きしめながら加恋ちゃんのことを正面に向けて、その後キスをした。


 加恋ちゃんの唇にキスをした僕は、次に加恋ちゃんの首筋にキスをした。


「ゆ……優くん……ダメだよ……もし誰かが入って来たら……」


 僕は加恋ちゃんのいうことを無視して何度も加恋ちゃんの首筋にキスをした。


「……ダメだから……」


「……優くん……?」


「他の男子たちに見せちゃダメだから……」


「……え……?」


「他の男子たちにあんな可愛い笑顔を見せちゃダメだから……」


「……優くん……」


「……お願い……約束して……加恋ちゃん……」


「……優くん……」


「加恋ちゃんの笑顔は僕だけに向けてほしい……」


「……優くん……」


 ……加恋ちゃん……。