美し過ぎる転校生
今、僕は衝撃を受けた。
5月の中旬。
ホームルームの時間。
そんなときの出来事。
あまりの衝撃で僕の心臓がドクンと跳ね上がった。
なぜなら……。
今日から転校してきた女の子が……。
「今日からこのクラスでみんなと一緒に勉強をする花咲加恋さんだ。花咲、みんなに挨拶を」
担任の先生が転校してきた女の子にそう言った。
そして……。
「花咲加恋です。よろしくお願いします」
……‼
僕は、その子の声を聞いてまた衝撃を受けた。
なんて……。
なんてきれいな声なんだ。
そして……。
なんという美しいんだ……‼
僕がそう思ったと同時に、またクラスの中がざわついた。
ざわついたのは特に男子たち。
その気持ち……わかる……。
花咲加恋さん……。
見た目は美しくて可愛らしい感じ。
髪は艶がありサラサラなストレートヘア。
目は大きく瞳の色は薄いブラウンで、肌は白く透き通った感じ。
声も透明感のあるきれいな声。
……‼
僕は、はっと気付いた。
何をそんなにもジロジロと女の子のことを見てしまって……と。
これでは、まるでセクハラになってしまう。
そう思った僕は慌てて花咲さんから目をそらした。
それと同時。
「草野」
担任の先生が僕の名前を呼ぶ。
「はい」
先生に名前を呼ばれて返事をする、僕。
「花咲は草野の隣の席に座ってもらうから、いろいろと教えてやってくれ」
「はい」
花咲さんが僕の隣の席……。
僕は、それを聞いて少しずつ胸の鼓動が高鳴るのを感じた。
「花咲、あそこの席に」
「はい」
花咲さんは透明感のあるきれいな声で返事をした。
返事をした後、花咲さんは僕の隣の席に向かって歩き出した。
花咲さんが僕の隣の席に向かって歩いてくる。
歩いてくるときに生まれる風が花咲さんの髪をやさしく揺らしていた。
髪をやさしく揺らしながら歩いてくる花咲さんの姿は絵になるほど美しくキラキラと輝いていた。
花咲さんが通った後の空間は、目には見えないけど、そこに花が咲いたようなそんな雰囲気を感じる。
そんな雰囲気を感じるからか、花咲さんが歩くだけで男子たちは、ざわざわしていた。
そして花咲さんが僕の隣の席に着いた。
僕は花咲さんの方を見た。
すると花咲さんも僕の方を見た。
純粋過ぎるくらいの花咲さんのきれいな瞳に見つめられた僕は身体が一瞬、時が止まったかのように動かなくなってしまった。
まるで魔法にかけられてしまったかのように……。
僕の固まった様子を見ている、花咲さん。
花咲さんに見つめられ続けて僕は、ますます固まってしまう。
そんな僕のことを心配している様子の花咲さん。
僕のことを気にしながら花咲さんは椅子の背もたれに手を乗せた。
繊細そうな細くてきれいな指。
その指で椅子の背もたれを後ろに引いた。
そして花咲さんは椅子に座り、もう一度、僕の方を見た。
僕は、さっきよりも胸の鼓動が激しくなっていることがはっきりわかった。
そして頬も熱くなっている。
花咲さんが僕の隣の席に座ったのだから僕は、挨拶くらいはしないといけないと思うのだけど、その気持ちとは正反対に全く声が出ない。
このままでは花咲さんに挨拶もできないのかと思われてしまう……そう思ったそのとき……。
「草野くん」
花咲さんが僕の名前を呼んだ。
僕は、まだ声が出なかった。
「わからないことがあったら教えてね」
そう言ってやさしく微笑む、花咲さん。
「……うん……」
僕は、ようやく声を出すことができた。
「僕は草野優、よろしくね」
やっと挨拶もすることができた。
「こちらこそよろしくね」
花咲さんの笑顔。
それは天使のような笑顔。
僕は、その天使のような笑顔の花咲さんの笑顔に見とれていた。
* * *
1時間目が終わった。
「草野、今日、日直だよな。悪いけど、そのノートを職員室まで運んでくれるか」
「はい」
僕は先生の机の上に置いてある一クラス分のノートを手に取った。
そして僕は一クラス分のノートを持って教室を出た。
今、僕はノートの束を職員室まで運んでいる。
すると。
あれ?
何か聞こえる。
この音は……。
ノートの束を職員室まで運んでいるときに後ろから小走りしたような足音が聞こえてきた。
その音はどんどん近づいてくる。
僕は気になって後ろを振り向こうとしたと同時。
「草野くん‼」
僕の後ろから花咲さんの声が聞こえた。
僕は花咲さんの声に足を止めた。
そして僕は花咲さんの方を見た。
「よかった、追いついて」
少しだけ息を切らしている花咲さん。
「花咲さん」
僕は、花咲さんが僕のことを追いかけてきたことに少し驚いていた。
「廊下は走っちゃいけないことはわかってるんだけど少し走っちゃった」
少し頬をピンク色に染めながら花咲さんがそう言った。
「花咲さん、どうしたの?」
僕は少し驚きながら花咲さんにそう訊いた。
「私にもノート、半分持たせて」
「え……?」
花咲さんがそう言ってくれて嬉しかったけど、少しだけ戸惑いもあった。
なぜなら、転校してきたばかりの花咲さんにいきなり手伝ってもらうのも少し気が引けるから。
僕はそう思っているのだけど……。
「ねっ」
花咲さんは笑顔で手を差し伸べる。