「長浜?」

わけがわからず、気が動転していた私に更に驚くモノが見えた。


▶何も言わずにボールペンを受け取る
▶ありがとうございますと笑顔でお礼を言う


(はっ……? ナニ……これ?)

現れた文字はピカピカと点滅していた。

どこかでなんだか見覚えがあるそれを、とりあえず読んでみる。

何も言わずに受け取るって、そんな事したら後でまた主任に文句言われそう。

私が心の中でそう思った瞬間──

「ありがとうございます!」

自然に声を出し、表情筋が満面の笑顔を作った。

「……って、えっ?」

自分で自分の行動が理解出来ず、両手で口を覆った。

「あっ、ああ……」

主任も何だか信じられないモノでも見た様な、そんな様子で私にボールペンを渡す。

それも仕方ないだろう、何せ私は主任がウチの部署に来て数ヶ月、主任に笑いかけた事が無いのだから。
それどころか、ほとんど目も合わせた事が無い。
いつも、下を俯いてならべくこの人と関わらないよう必死だったのだから……

私はもう、一体何がどうしてどうなっているのか一切わからずに早足でその場から立ち去り、エレベーター前で待っていてくれた尚子ちゃんと美里さん達と一緒に自分達の部署のある階へと向かった。

さっきのは、一体何だったんだろう?

結局、ハートと数字の意味がわからないどころか、あんなまるで選択肢みたいなモノが見えるなんて……

選択肢──

なんとか自分の席に着くと、私はスマホ画面を開いた。

ディスプレイには、つい数時間前までプレイしていた〘 プリンス・オブ・ラバー〙のゲーム画面がある。

そして……

(やっぱり……コレださっきの)

何気なくタップしてみたキャラクターストーリー、そこにはさっき見たのと同じような選択肢がピカピカと点滅する画面が映し出されていた。

やっぱりアレは、選択肢なの──?

私は混乱した。
始業までにまだ時間がある、そう思い席を立つとトイレに向かった。

もしかしたら、ゲームのしすぎで目が疲れて変なモノが見えてるのかも……?

洗面所で自分を落ち着けようと、目薬をさす。

少し目を休めた方がいいかもしれない。
コンタクトを外すと、私は持って来ていたメガネをかけた。

席に戻ると、目の前に座る男性社員が視界に入る。

(何も見えない……)

やっぱり、目が疲れていたんだろう。
少しホッとした。