「小夜~? 起きたの? 朝ごはんは?」

台所からお母さんの声が聞こえた。

「ん~っ……今日はいらない」

いつもストックを置いてある戸棚を探すが、やはり見つからない。

(あっ……そうだ!)

私は再び自分の部屋に戻ると、机の上に置いたまま開けてなかった昨日届いたダンボールの小さな箱を開封した。

(やっぱり、コンタクトだ)

同封されていた紙には、いつもご利用ありがとうございますという文字と、いつも使っているメーカーの新しいコンタクトレンズのサンプルが入っていた。

新しいといっても、メーカーも商品名もいつものと同じ、ワンウィークのソフトレンズ。
違っているのはパッケージに、NEWという文字が入っているだけだ。

万が一合わなかったりしたら、昼にでも会社の側でいつものを買えばいい。

着替えて手短にメイクを済ませ、コンタクトレンズを装着すると私は急いで玄関に向かった。

「小夜、今日雨降るらしいわよ傘持ってきなさい」

お母さんが台所からひょっこり顔を出して言う。
折りたたみの傘は自分の部屋だ、チラっと外を玄関の窓越しに見ると特に怪しい雲行きでもない。

「いってきます!」

私は傘を持たずに、家を出た。



なんとか走って、私はいつも会社に行く同じバスに乗る事が出来た。

(よかった……間に合った)

座席に座り、ようやくホッと一息つくと違和感に気づく。

違和感──
というか、よくわからないがハートのマークがナゼかあちらこちらに見えるのだ。

(ハート……? 何コレ?)

気になってじっと見つめていると、ハートマークの下には数字が表示されている。

(20……)

大体、20~30くらいだ、何故かこのハートマークと数字は男性の頭の上に出現しているのだが、私は意味がわからず何度か瞬きし、カバンから目薬を出してさしてもみるが、やはりハートと数字は消えない。

朝方近くまでゲームなんてしていたからだろうか、私は一度下を向いてもう一度顔を上げた。

特に変化は無かった。

ハートマークとその下に数字。

理解が出来ず、ただただ混乱していると……

「小夜! おはよう」

尚子ちゃんがバスに乗って来た。

「尚子ちゃん!」

私は少しホッとして、尚子ちゃんにも今私が見えてるモノが見えるか聞いてみる事にした。

「ね、ねぇ、あの、ハート……尚子ちゃんにも見える?」

「えっ? ハート?」

「うん……みんなのまわりにあるハート……」

「なんの事?」

尚子ちゃんには見えていないのだろうか?

「ハートと数字が……ごめん、なんでもない」