私と君島さんの間に、慌て入間さんが立ちはだかった。
「……入間君は今日、別の打ち合わせがあって忙しいんじゃなかったっけ?」
「いえ、大丈夫です」
「でも僕は、彼女にお願いしたいんだよね~さっ、行こうか」
私は君島さんにいきなり手を握られると、連行される様な形で部屋を連れ出される。
背中に悔しそうな美里さんや他の女子社員、また唖然とする部長や尚子ちゃんの視線を感じていた。
「待って下さい副社長、ガイドなら私が……」
廊下に出るとすぐに後ろから入間さんが追いかけて来た。
「そう? それなら、奏にはもっとやってもらいたい仕事があるからそっちをお願いしたいんだけどな~」
「社内でその呼び方はヤメろ……」
「奏?」
私は思わず声に出してしまっていた。
「あ~、ごめん僕と奏は学生時代からの腐れ縁でね……もう10年以上の付き合いなんだ」
「その話しはもういいから、ともかく長浜はダメだ」
「長浜さん……へ~……彼女、長浜さんって言うんだよろしく」
「はっ、はぁ……」
手を差し出してきたと思った瞬間、私の手はまたすぐに握られていた。
「おい、いい加減に……」
「奏……この会社では僕のが立場が上のはずだよ?」
突然、先程までにこやかだった君島さんの表情が変わった。
「コレは、お願いじゃなくて命令なんだけど」
「…………わかり……ました」
「あっ、あの主任、私なら大丈夫ですから……」
黙り込んだ入間さんにそう声をかけ、私は何故だかご機嫌な君島さんに手を引っぱられるように連れていかれた。
二人でエレベーターに乗って、まずはどこから案内しようか私が答えを出すより早く、君島さんの手が私の肩越しからとある階のボタンを押す。
「えっ? アノ……この階は……」
視察と聞いていたので、私には君島さんがそのフロアに行く理由がわからない。
「ん? 僕が一番見たいとこはねココ!」
そう満面の笑顔で返されたので、それ以上は何も言えなかった。
──で、案内とは言っても特にする事は無い。
というか、君島さんはすぐに私を連れて社食に入ってくつろいでしまったから……
「今日のランチはサバ味噌だってさ~いいね~日本食恋しかったんだよね」
「あの~……君島さん?」
「ん~っ? なに~?」
本日のランチ
と、書かれた黒板をわざわざ視察しに来たのかこの人は……