昨日は入間さんと沢山話して、帰りも家まで送ってもらった。

更に、会社の上司として入間さんがお母さんに挨拶までしたものだから、母は突然のイケメン上司登場に戸惑いつつも、明らかに私と入間さんに期待している様子だった。

(まだ付き合ってもいないのに……)


そして……

次の日の朝、会社へ行くと何故だか会社の雰囲気がいつもと違っていた。

「あっ、小夜おはよう」

私を見つけた尚子ちゃんは、すぐに側に寄って来て耳打ちする。

「社長のご子息様だって」

見回すと部長が商談スペースで誰かと話している姿が、パーテーション越しにチラっと見えた。

「息子さん……? 確か、普段は海外支社を任されていてそっちにいるとかいう?」

「そう、部長と主任がお相手してるみたいだけど……さっきチラっと見たんだけどね、イケメンだった」

尚子ちゃんは興奮気味だった。
美里さんの方に視線をやると、机の上に今から全行程するのかというレベルでメイク道具が並んでいる。

「誰かに社内を案内させるって、さっき部長が言ってたから美里、必死なの」

なるほど……と私は納得した。
今の私には、社長のイケメン息子の事より主任の方が気がかりなのだが……

「ちょっとみんな聞いてくれ~」

一斉に皆部長に注目する。

「みんなに紹介する、知ってる者もいるだろう、君島 恭介さんウチの副社長で海外支社に普段はいらっしゃるんだが、今日一日コチラを見て回られる」

男性社員は緊張の面持ちだが、明らかに女性社員は色めきだっていた。

「はじめまして君島です、皆さんよろしく」

主任とはまた違うタイプの、正統派なさわやか系イケメン。
柔らかな物腰や雰囲気で、ああいうタイプを王子様と呼ぶのかもしれない。

「一人、ウチの部署から一日君島さんのガイドをお願いしたいのだが……」

全ての女子社員の視線が君島王子に注がれる中、私はその隣に立っている入間さんの方ばかり見ていた。

相変わらず好感度の数字が変わってない事にホッとする。

私が胸を撫で下ろしていると、何故か君島さんと目が合ってしまった。

(もしや、話し聞いてないのバレた?)

注意されるかもしれないと思っていると……

「彼女にお願い出来ますか?」

女子社員が皆、ヤル気を出して必死に手を上げる中……

何故か挙手していない私の前に、君島さんは立った。

「えっ……?」

「まっ、待って下さい! でしたら私がご案内します」