リアルラブゲーム CONTINUE


「それで、その……好感度が見える以外にもその……他に見えるものがあって、あっ、その前に長浜は恋愛ゲームって知ってる? した事あるかな?」

「あっ……はい」

私はスマホを開いてプリラバの画面を見せる。

「私、ちょうどこのゲームを友達から勧められてやってるんです」

「あっ……長浜も?」

も?
という言葉に、私はすぐに反応していた。

「そのゲーム、妹がやってて……僕も勧められてやってるんだ……」

「入間さんが?」

「あっ、うん……最初は妹と一緒にしてたんだけどね、ストーリーがわりと面白くて僕もハマっちゃって……変だよね」

確かに、コレは所謂女性向け恋愛ゲームと言われるものだ。
男性のプレイヤーは珍しいかもしれない。

「私もこのゲーム、面白いと思います」

そう言うと、入間さんは安堵したのか微笑んだ。

「このゲームをやった事あるなら長浜も知ってると思うんだけど……選択肢っていうのかな、そのプレイヤーの行動を選ぶやつ……それがね好感度と一緒に見えるようになって……」

やはり、私の考えは当たっていたらしい。
いつもと違う入間さんの行動。
コレは、アノ選択肢からのものだったんだ。
納得する私に、彼は突然深々と頭を下げた。

「ごめん!!」

そして、謝罪の言葉を発した。

「えっ?」

私は突然の事に呆然と入間さんを見つめる。

「なんだか、騙したみたいになって……こんなのズルいって自分でもわかってた……だけどこの選択肢を選んでいたら、長浜とこうしてデートが出来て……だから」

ああ、そうか。
私にとっては本当になんだかわからない、謎の選択肢。
だけど、入間さんにとってはそれが逆に助け舟になっていたんだ。
好きな人の前でなかなか素直になれなかったりして上手くいかない事も、この選択肢を選んでいれば本当の自分のとりたい行動が取れる。

「でも、こうして長浜と二人の時間を過ごせて気づいた……この選択肢に頼らないでちゃんと長浜に向き合いたいって……」

「入間さん……」

私は、今始めて入間奏という人の素の部分を知った気がした。

彼は本当はとても真面目で、恋愛に対しても一生懸命でだからこそ空回りしたり、上手くいかない事でつい逆の行動をとったりして、とても恋愛下手な人なのだろう。

私もあまり恋愛が得意ではないから、その気持ちがわからなくは無かった。

「あの……入間さんの今日の全ての行動が、選択肢によるものではないですよね?」

「えっ……まあ、それは……そうだけど」

「なら、ちゃんと入間さんは入間さんとして今日は私と過ごしてくれてたトコロもあるんですよね?」

「……うん」

「それに、考えようによっては選択肢だって入間さんが自分の意思で選んだって事じゃないですか?」

「そっ、それは……そうだけど」

私は思った。
確かに、選択肢で多少誘導されての結果だったとしても、それが無ければこうして入間さんと一緒に過ごす事は無かったろうし、本当の彼を知る機会だって一生無かったかもしれない。

それなら、今は選択肢が介入したからの結果でもいいのでは無いのだろうか?
それに私も、選択肢を選んだのは自分の意思で、何かに促されたワケではない。
それなら、きっと……

入間さんも自分の意思があって選んだ事だと思う。

「それとも、入間さんは攻略サイトでも見て選択を選んだんですか?」

私のその質問に、彼は吹き出していた。

「ふっ……いや、さすがにその発想は無かったな、あったら何十分も悩んだりしなかった」

「ですよね、だから謝る事なんて……ないです」

「ありがとう長浜……」

私はその時、なんとも言えない胸の高鳴りを覚えていた。

私と同じように不器用な入間さん、けれど本当はまっすぐでとても真面目な人。
久々のときめきとも言えるこの感情に、私は……

すぐに、コレが見えてしまっている事に気づく。

「はっ!? あっ、違っ……」

自分の頭の横辺りをブンブンと片手を振って、彼の視界を遮ろうとした。

「……? どうかしたの?」

「いっ、いえ……その……」

そして、自分の行いに我に返り、恥ずかしくなって俯く。

「良かった……変な話ししたから長浜に嫌われるんじゃないかって思ってたんだ」

安堵のため息を入間さんは吐いていた。

(ん? 普通、好感度上がったらもっと喜ぶ反応をするモノでは……)

私はなんだか彼のその様子に、今の自分の入間さんへの好感度の数字が、一体どのくらいなのかが気になって来ていた。
けれど、こんなの自分で聞くのも変な話しだ。

「実は、コレ以上下がったらどうしようか不安だったんだ……崖っぷちだったから」

「崖っぷち?」

「うん、長浜の僕への好感度……2だったから」

「……2?」

「そう……2」

低っ!!
私の入間さんへの好感度低っ!!

「すいません、それって何段階評価ですか?」

私は念の為、確認した。
もしかしたら、私の好感度数値と違って、入間さんのは50が最高値かもしれない。

いや、それでも2はカナリ低いけど……。

「多分、あのゲームと同じで99じゃないかな? 96って人がいたから」

「あっ、そうなんですか……」

なんだか、ちょっと申し訳ない気分になった。

「な、なんかすみません……」

「いや、僕がそれだけ嫌われるような態度を長浜にとってたって事だろうから」

そう言って少し寂しそうに笑う。

「あっ、で、でも今少しは上がったんじゃないですかっ!?」

私はあまりにしょぼくれる入間さんを元気づけようと、なんとかフォローしていた。

「長浜……」

「そっ、その……悪気は無いって、今の入間さんの話で私も理解しましたし……」

「うん、ありがとう長浜……今ようやく5になったよ」

低っ!!
やっぱ低っ!!
どういう事??
私、そんなに入間さんへの好感度無いの?

「少しずつだけど、選択肢のおかげで長浜に対して僕もちゃんと対応出来るようになってきた気がするんだ」

「入間さん……」

今なら、今なら入間さんの気持ちが私にもわかる。
私も恋愛が苦手だから……
好きだって思うといつも自分の素を出せなくなって……結果、本やネットの恋愛マニュアルに左右されて……

『思ってたのと違う……』

そう、言われてしまった。

ガンバろうとすると、なんだか空回りしてしまう。
上手く自分を出せずに、相手に嫌われてしまって……

今の入間さんは、昔の私と同じ気がする。

そう思うと、肩を落として小さくなってる入間さんを私は自分でもおかしいとは思うが、助けてあげたくなってしまった。

「入間さん、私が力になります」

「えっ……?」

「二人で協力して、私の好感度を上げましょう!」

「へっ?」

突然の申し出に入間さんは戸惑っていた。
それはそうだろう、何せ攻略対象である私が自ら協力したいと申し出ているのだ。

言ってる自分もわけがわからない。

でも……

「私、その……入間さんの事今まで誤解していて……だからその……ちゃんと入間さんを知ればきっと、もう少しくらいは好感度上がると思うんです! 私の……」

「長浜……いいのか?」

「はいっ! 私、頑張って自分の好感度が上がる様に、入間さんにアドバイスしますので」

「あっ、ありがとう! 長浜!!」

こうして、私と入間さんはよくわからないが〖私の好感度を上げる〗という謎の共通目標を持ち、協力関係となった。

「まずは……共通の趣味の話題で盛り上がるとかどうでしょうか?」

植物園を後にした私と入間さんは、近くの喫茶店に来ていた。

「共通の趣味か……」

二人で私の好感度を上げる作戦会議だ。
……落ち着いて考えると妙な話だが、それが事実なので仕方が無い。

自分で自分の好感度を上げるなんて、考えた事も無かったけど……

でも、さすがに2とか5はいくらなんでも、例え今までの事があったとしても入間さんが可哀想だ。

「長浜の趣味は?」

「えっ……? う~ん……」

改めてこう聞かれると私には趣味らしい趣味がない様な気がする、そしてなんだかちょっとお見合いみたいだなと、この状況の方に気を取られてしまった。

「入間さんは?」

「僕は、植物園や動物園に行ったり……後は料理とかかな……」

「料理ですか!? スゴい!」

「いや、ウチは両親が共働きで忙しくて、毎日妹と自分の分を作っていたから、何となく身についてて……」

「そうだったんですね……あっ、得意料理はなんですか?」

「そうだな、カレーとか? ルーからオリジナルで作るんだよ」

「えっ!? スゴいですね、私カレー大好きです」

「じゃあ、今度作ってご馳走するよ」

「はい!」

コレは……
コレはとても良い会話だと思う。

自然に会話が弾んだ感じがするし、料理上手な男子は人気も高い。
私にもきっと好感触だったはず、何より私自身の体感では、もうわりと入間さんに今までの様な嫌悪感を抱いていない。

きっと、これなら好感度アップ間違い無しだ。

「あの、入間さん私の好感度どうです?」

入間さんは私の頭の横をじっと見て、ホッとした様な顔をした。

「大丈夫だよ」

「上がりました?」

「いや、下がっていない、5のままだね」

私っ────!!
えっ? どんだけっ!?
どんだけ私って人に好意を抱かない人間なんだ?

いや、昔はもっと……
そう昔は……

「やっぱり……」

私はポツリと呟いていた。

「やっぱり?」

心配そうな顔で入間さんは私の顔を見ていた。

「私、その……昔ちょっと恋愛でトラウマがあって……」

向こうから好意をいくら寄せられてても、付き合って本当の私を知ったら……
そう、みんな私から離れてく。

そんな、どうしようもない不安。

それがある限り、もう誰かを好きになる事は止めようと……
私は誰かに好意を持つ事を、自分で自分に禁止にしている。

「それで……なかなか誰かを好きになる事が出来なくなってるんです」

私は、また傷つくのが怖いのだ。
好きになった人に、また飽きられてしまうのが……

「……そっか、でも無理して好きになんてならなくてもいいんじゃない?」

「えっ……?」

入間さんはメガネを外して、私の目を見つめた。

「だって、僕だって好きになろうと思って長浜を好きになったワケじゃないよ? 好きになるって、努力してなるものじゃないし……」

「入間さん……」

「確かに、長浜に好きになって貰えたら嬉しいけど……でも、僕は長浜が辛い思いをしたり嫌な思いをする方が自分が嫌だって、このメガネで気づいたんだ……」

そうか、入間さんは選択肢に従っただけじゃなくて明らかに数値で好感度を見た事で、自分が好きな人に嫌われる事をしてそれが反映される所をメガネで見てしまったんだ。

「僕は今まで好きな人に嫌われる様な事ばかりして来てて、自分でもダメだってわかってたのになかなか治せなかった……でも、長浜のその好感度見た時に自分が悪いとはわかってたけど、ショックだったんだ……」

ショック療法、というやつだ。
こういうのは反作用して余計に悪化する場合もありそうだけど、入間さんの場合は上手くいったという事なのだろう。

「だから……まだ僕はきっと恋愛初心者で、長浜に好きになってもらうなんて、夢のまた夢かもしれないし……無理かもしれないけど……今度はちゃんと好きな人に対する態度で自分から頑張ってみようと思う」

そう言って優しく微笑んだ彼に、私はドキリとした。
それは久しぶりの、もう名前すらおぼろげな感覚。

「もっと長浜の事、教えてくれないかな?」

私は、出来る限り笑顔で答えた。
今気を抜いたら、顔を紅潮させてすぐに俯いてしまいそうだったから……
悟られない様に必死になった。

恋はするモノじゃなくて、落ちるものだって聞いたけど、今日ほどこの言葉に実感を覚えた事は無い。

多分、今入間さんがメガネをかけていたら……

きっと、私の好感度はとんでも無い数字になっている事だろう。

暴落していた株価は、急上昇で上がっているはずだ。

好感度を知られない事にホッとしつつ、私は入間さんと色々な話をした。

お互いの話をちゃんとするのは初めてで、私は今まで知らなかった入間さんを知る事が出来たし、入間さんの知らなかった私の話をする事で私を知ってもらいながら、好感度チェックを怠らなかった。

その日、彼の好感度が下がる事は無かった。

昨日は入間さんと沢山話して、帰りも家まで送ってもらった。

更に、会社の上司として入間さんがお母さんに挨拶までしたものだから、母は突然のイケメン上司登場に戸惑いつつも、明らかに私と入間さんに期待している様子だった。

(まだ付き合ってもいないのに……)


そして……

次の日の朝、会社へ行くと何故だか会社の雰囲気がいつもと違っていた。

「あっ、小夜おはよう」

私を見つけた尚子ちゃんは、すぐに側に寄って来て耳打ちする。

「社長のご子息様だって」

見回すと部長が商談スペースで誰かと話している姿が、パーテーション越しにチラっと見えた。

「息子さん……? 確か、普段は海外支社を任されていてそっちにいるとかいう?」

「そう、部長と主任がお相手してるみたいだけど……さっきチラっと見たんだけどね、イケメンだった」

尚子ちゃんは興奮気味だった。
美里さんの方に視線をやると、机の上に今から全行程するのかというレベルでメイク道具が並んでいる。

「誰かに社内を案内させるって、さっき部長が言ってたから美里、必死なの」

なるほど……と私は納得した。
今の私には、社長のイケメン息子の事より主任の方が気がかりなのだが……

「ちょっとみんな聞いてくれ~」

一斉に皆部長に注目する。

「みんなに紹介する、知ってる者もいるだろう、君島 恭介さんウチの副社長で海外支社に普段はいらっしゃるんだが、今日一日コチラを見て回られる」

男性社員は緊張の面持ちだが、明らかに女性社員は色めきだっていた。

「はじめまして君島です、皆さんよろしく」

主任とはまた違うタイプの、正統派なさわやか系イケメン。
柔らかな物腰や雰囲気で、ああいうタイプを王子様と呼ぶのかもしれない。

「一人、ウチの部署から一日君島さんのガイドをお願いしたいのだが……」

全ての女子社員の視線が君島王子に注がれる中、私はその隣に立っている入間さんの方ばかり見ていた。

相変わらず好感度の数字が変わってない事にホッとする。

私が胸を撫で下ろしていると、何故か君島さんと目が合ってしまった。

(もしや、話し聞いてないのバレた?)

注意されるかもしれないと思っていると……

「彼女にお願い出来ますか?」

女子社員が皆、ヤル気を出して必死に手を上げる中……

何故か挙手していない私の前に、君島さんは立った。

「えっ……?」

「まっ、待って下さい! でしたら私がご案内します」

私と君島さんの間に、慌て入間さんが立ちはだかった。

「……入間君は今日、別の打ち合わせがあって忙しいんじゃなかったっけ?」

「いえ、大丈夫です」

「でも僕は、彼女にお願いしたいんだよね~さっ、行こうか」

私は君島さんにいきなり手を握られると、連行される様な形で部屋を連れ出される。
背中に悔しそうな美里さんや他の女子社員、また唖然とする部長や尚子ちゃんの視線を感じていた。

「待って下さい副社長、ガイドなら私が……」

廊下に出るとすぐに後ろから入間さんが追いかけて来た。

「そう? それなら、奏にはもっとやってもらいたい仕事があるからそっちをお願いしたいんだけどな~」

「社内でその呼び方はヤメろ……」

「奏?」

私は思わず声に出してしまっていた。

「あ~、ごめん僕と奏は学生時代からの腐れ縁でね……もう10年以上の付き合いなんだ」

「その話しはもういいから、ともかく長浜はダメだ」

「長浜さん……へ~……彼女、長浜さんって言うんだよろしく」

「はっ、はぁ……」

手を差し出してきたと思った瞬間、私の手はまたすぐに握られていた。

「おい、いい加減に……」

「奏……この会社では僕のが立場が上のはずだよ?」

突然、先程までにこやかだった君島さんの表情が変わった。

「コレは、お願いじゃなくて命令なんだけど」

「…………わかり……ました」

「あっ、あの主任、私なら大丈夫ですから……」

黙り込んだ入間さんにそう声をかけ、私は何故だかご機嫌な君島さんに手を引っぱられるように連れていかれた。

二人でエレベーターに乗って、まずはどこから案内しようか私が答えを出すより早く、君島さんの手が私の肩越しからとある階のボタンを押す。

「えっ? アノ……この階は……」

視察と聞いていたので、私には君島さんがそのフロアに行く理由がわからない。


「ん? 僕が一番見たいとこはねココ!」

そう満面の笑顔で返されたので、それ以上は何も言えなかった。



──で、案内とは言っても特にする事は無い。

というか、君島さんはすぐに私を連れて社食に入ってくつろいでしまったから……

「今日のランチはサバ味噌だってさ~いいね~日本食恋しかったんだよね」

「あの~……君島さん?」

「ん~っ? なに~?」

本日のランチ
と、書かれた黒板をわざわざ視察しに来たのかこの人は……

「視察は?」

「してるよ~……社食のメニューを、写真と実物があまりに違ったらすぐに指摘する!」

「そういう視察……じゃなくて、もっと会社の中を」

「長浜さんは真面目だね!」

「えっ……?」

君島さんはぐっと身を乗り出して、私の顔をジっと見つめた。

「ねね、それよりさ長浜さんって奏とどういう関係なの?」

「ど、どういうって……」

私は昨日の事を思い出し、なんと返すのが正解か戸惑ってしまう。

「付き合って……はいないよね」

「えっ!? 当たり前です!!」

「ふーん……」

君島さんはニヤリと笑った。
まるで何か企んでいるような顔……

「そろそろ、出ようか?」

「えっ? サバの味噌煮はいいんですか?」

「それはまた後で……」

再び私の手を引いた君島さんは、上機嫌でエレベーターに乗り込むと最上階のボタンを押した。

「ここの屋上好きなんだよね……」

到着と同時に扉が開く。
ウチの会社の屋上は庭園の様になっていて、そういえば屋上をこういう内装にしたのは副社長だと聞いた事がある。

「会社って息が詰まるんだよね~」

君島さんは大きく伸びをすると、ベンチの方へと歩いて行き腰を下ろした。

私もその後に続き、少し距離を取ってベンチに座った。

「ねぇ、長浜さん」

「はい……」

「長浜さんって、彼氏いるの?」

「……な、何です? 急に……」

「僕とさ、付き合ってよ」

「えっ……? はっ??」

私の脳内は真っ白になった、何故なら──
先程から見えてる君島さんの私への好感度は……

20……

つまり、その辺にいる人と変わらない。

「僕、キミに一目惚れしちゃったんだよね~」

君島さんは、ウソをついている。
それが何故かは、わからない。
でも、好きでもない私にそんな事言うとか……
からかってるのだろうか?

「冗談やめて下さい」

私は苦笑いで答えた。

「冗談? いや、本気だけど……」

私は何が何やらさっぱりわからなくなった。
好感度はやはり20。
君島さんの目的がわからない。

「付き合ってよ……」

私は黙っていた。
ここで返事をしたら、「な~んて冗談!」と君島さんが言うのを待った。

しかし……
待ち望んだ答えと、全く違う答えが彼から来たのだ。

「キミが付き合ってくれないなら……奏をどこか地方の支社に飛ばすかも」

「えっ……!? 入間さんを」

「うん」

君島さんはニッコリと微笑んだ。

「ま、待って下さい! 入間さんは関係ないじゃないですかっ!?」

「関係……なくないよ、だって奏はキミの上司でしょ? 部下の失態の責任は上司である奏にある」

「そんな……」

「どうする? 僕と付き合う? それとも……」

その時──

私の目の前に、アノ選択肢が表れた。

『彼を助けますか Yes/No』

コレは……

つまり、私が君島さんと付き合う事で入間さんを助けるという事なんだろうか……

私の事を好きではない、多分遊び半分で入間さんや私を困らせたい為だけの君島さんと付き合う。

もし、今の私が一週間前の私だったら、私は入間さんを助けていないと思う。

だけど──

今の私は、本当の彼を知ってしまったから……
私は、迷わなかった。

イエスを選ぶ事に……

「わかりまし……」

「長浜!!」

私が君島さんへ返事をしようとした時、聞き覚えのある声がした。

振り向けばそこにいたのは、入間さんだった。

「長浜はそんな事をしなくていいから」

「入間さん」

「奏……」

入間さんは私の手を引き、ベンチから立たせると私を庇う様に君島さんと私の間に立った。

「コイツはいつもそうなんだ……学生の頃から僕が好きになる人をこうやって横から奪って……飽きたらすぐに別れるを繰り返して……」

君島さんは黙っていた。

「 僕は、長浜が好きだ……誰にも渡したくない、もちろん君島オマエにも……」

「か……かなで~……」

見ると、何故か君島さんはハラハラと涙を流していた。

「き、君島オマエなんで泣いて……」

「良かった~……良かったよ……オマエちゃんと好きな子に好きって言えるようになったんだな~……」

「はっ!?」

君島さんは号泣していた。
もうそれは、涙や鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら子供の様に号泣している。

しばらく君島さんは泣き続け、ようやく落ち着きを取り戻し、私と入間さんは君島さんから一体どういう事なのか話しを聞いた。

「学生時代、奏ずっと好きだった子がいたろ……? それなのに何故かその子にやたら冷たく当たってて、僕が彼女に告白したらさすがに焦るかと思ったら……見て見ぬふりしてさ」

ああ、例の入間さんの悪いクセが……
もしかして……君島さんは入間さんを今までずっと焚き付けていたの?

「それで……その後も、やっぱり奏は好きな子に辛く当たって、僕が言ってもムキになって好きな事を否定して……それで……」

「それで……もしかしてワザと入間さんの好きな人にアタックしてたんですか?」