翌日──

私は全く眠れなかった。
緊張と後悔と、それともう一つは……

主任の好感度を、なんとか下げられないかという事。

もしかしたら普段、会社でしか接点が無いからこそあの好感度の高さなのかもしれない。

今日デートして、プライベートの私を知れば、主任の私に対する好感度も下がるかもしれない。
そうだ!

そう思って主任のデートの誘いを受けたんだ、私は。
そう言って、自分で自分に言い訳していた。

まあ、本当は主任の私服姿を見てみたいという興味と、デートなんてしばらく行った事が無かったので、単純に誘いがちょっと嬉しかったのもある。

い、いやいや!
いくら主任が私の好みの見た目でも、アノ主任とのデート、きっと何か嫌味の一つでも言われる事を覚悟しておかなきゃ。

遅刻なんて、絶対に出来ない。
私は待ち合わせ時間の20分前には着くように、言われた場所へと向かった。

到着した駅前のベンチに座り、何度も自分に言い聞かせる。
コレは楽しいデートではない、アノ主任とのデートだ。
主任の好感度を下げる為のデート!

だが──

約束の場所に時間通りに現れた主任を見て、私はさっきまでの不安が掻き消えてしまった。

「長浜、ゴメンな待たせて」

「あっ、いえ……」

私服の主任はキラキラと輝いて見えた。
スーツの時の固いイメージではない、爽やかな好青年といった印象。

「ありがとう、来てくれて……」

そう言って主任は俯いた。

なんだか、会社の時とは完全に別人みたいだ。

「いっ、いえ……私の方こそ、今日はその誘って頂いて……」

私がお辞儀すると、主任は私の手をとった。

「行こうか?」

心無しか少しだけ、主任の頬が赤らんでいる気がする。

私は、主任の頭の横にある数字を確認した。

数値はやはり99……
依然として変わりはない。
何もアクションが起こっていないからしょうがない。

「アノ、主任……今日はどこに行くんですか?」

「企業秘密」

主任は微笑んだ。
私服のせいもあってかその笑顔はあどけなく見えて、私の知らない主任の一面についドキっとさせられてしまう。

「あのさ、長浜……今日は主任って呼ばないでくれないかな?」

「えっ……?」

「会社じゃないし……その……デートなワケだから……」

主任はモジモジと俯き、耳まで赤くしていた。
でもまあ確かに。
会社じゃないんだし、主任って呼ぶのもあれかな……