「いっ、いえ大丈夫ですか?」

目にゴミでも入ったのだろうか……
それくらいしか私には、主任が泣く理由がわからなかった。

「さっきは……申し訳ない事をしたと思っている」

「申し訳ない事?」

「あっ……その、君に……突然……告白してしまって」

「告白……」

夢だと思いたかったのだが、アレはやはり夢じゃなかったのか……
さっきまで、夢だったのだと必死に思い込もうとしていた自分が馬鹿馬鹿しく思えて来た。

「あっ、さっきの返事はやはり今はいいから!」

私は夢では無かった事に衝撃を受けてしまい、主任の話もなんだか上の空で、半分くらいしか理解出来ずにいた。

「長浜は、僕をあまり知らないだろ? それなのに急に付き合って欲しいと言われても困るだろうし……」

「はあ……」

私は話の内容より、主任が突然泣き出した事に、本日もう何度目かわからない衝撃を受けている。

「それで……長浜さえ、もし良ければ……」

私はこの時、今日はもうこれまで以上の衝撃は受けないだろうと高を括っていた。

「明日、僕とデートしてくれないか?」

ほんの数秒で、私の考えは塗り替えられてしまった。



──その後どうやって家まで帰ったのか覚えていない。
そして、自宅に着いてから後悔の念に苛まれていた。

「なんで……私……」

いきなり主任からデートに誘われた。

もちろん断わろうと思った。
答えは私の中で完全にNOだったのだ。

けれど、私の目の前にはまたアノ選択肢が出て来た。

▶うなずく(一度、くらいなら……)
▶すみません……用事があります

断る選択肢っ!

私はもちろん、下を選ぼうとした。
なのに……
私の答えを待っている主任が、目を潤ませてまるで餌を期待し今か今かと待つ子犬のようで、あまりにもなんだか、可哀想で……

それに、ジャケットを濡らしてしまった負い目も感じ……

元々、主任の見た目というか顔が好みだった私は気持ちがそこでつい、揺らいでしまったのだ。
自分でもわかってはいた、私は超が付く程の優柔不断だという事を……

そして、私は──

(い、一度くらいなら……)

まさかの、自分でその選択肢を選んでしまったのだ。

「有り得ない……私のバカ!」

けれど、返事を聞いた主任は今まで見た事もない満面の笑みで、ガッツポーズまでしていたから、コレで良かったのかもしれない……と、つい思ってしまったのも事実だった。

しかし、改めてアノ選択肢……
今回、断る選択肢も出て来ていた。

あの答えで、主任の好感度を下げる事は出来ないのだろうか?