お昼休みを迎え、私はすぐにメガネからコンタクトレンズにチェンジした。

これから主任とミーティングで顔を突き合わせるのに、お揃いのメガネとか……絶対に無理。

しかし、ようやく主任とお揃いのメガネから解放され、トイレを出た私はまたすぐそこで立ちすくむ。

(やだ……また……見える!)

目の前を通り過ぎる男性社員には、ことごとくハートマークと数字が出ているのだ。

(ウソ……何これ?)

そこで私は気づく、さっきまで見えて無かったものがまた急に見える様になっている。
見えてない時と、見えてる時の違い……

それって……

コンタクトレンズ──

だとしたら、私が別におかしくなったというワケではなく。
単にこのコンタクトレンズのせい? って、事……

「あれ、長浜さん今からメシ?」

戸惑う私に声を掛けて来た人物。

どこかで見覚えがある……
この人は……
私が一向に思いだせずに彼を見つめていると、向こうはその様子で何かを察して微笑んだ。

「あっ、ごめん、オレ……人事部の狭山」

「あっ、あー……」

ようやく思い出し、ついでに朝、美里さんが言ってた事も同時に思い出した。

『人事部の狭山君……小夜ちゃんの事いいな~って思ってるみたい』

「す、すみません……私、人の名前覚えるの苦手で……」

「いや、いいよいいよ、まともに話した事一、二回しかないし」

私はその一、二回の記憶すら曖昧だ。

「ごめんね、急に声かけて……あ、あのさ良かったらこれから昼飯一緒に……」

そう言った狭山さんの頭の上を確認すると、ハートマークの隣の数字は70だった。
主任を覗けば一番高い。

でも、もしコレが好感度ならやはり主任の数字がおかしい事になる。

「あっ、ごめん……急だよね」

しかし、狭山さんのこの様子は普段鈍い私でも明らかに好意を持たれているとわかる。

でも……
70……他に狭山さんに70という数字が出そうなモノなんて、寿命くらいしか思い浮かばない。
いやいや、そうすると今度はそんな死神みたいなモノが見えるのと、さっきの主任の選択肢が結びつかない。

(アレ?そういえば……狭山さんにはさっきの選択肢が見えない)

どういう事だろうか?

「長浜さん?」

さっきの選択肢の意味は?

「長浜さん、大丈夫?」

心ココにあらずといった感じで、しばらく狭山さんの頭の上を凝視していた。

「オレの頭の上、なんかいる?」