「生活できるようになったら迎えに来るから、そしたらまた一緒に住もう」
 四歳年上の兄颯太は、そう言ってのぞみが十四歳の時に施設を出て行った。のぞみと颯太の両親はのぞみが小学校に上がった年に不慮の事故で亡くなった。それ以来のぞみにとって家族とは、兄だった。
 十八歳で社会へ出た兄が、生活の基盤を整えて迎えに来てくれるのをのぞみは楽しみに待っていた。また家族として一緒に暮らせる日がくることを想像するだけで温かい気持ちになった。
 だがその日は来なかった。
 兄からの連絡は途絶えて、行方知れず。唯一の手がかりは、一度だけ来た葉書だった。
「お兄ちゃん…」
 白いモヤの中に兄の背中を見た気がして、のぞみは呼びかける。幼い頃は怖がりなのぞみが夜中にトイレに行くたびについて来てくれる優しい兄だった。迎えに来られないのは仕方がないにしても、連絡もろくにくれないなんて一体何があったのだろう。
「お兄ちゃん…」