「残念だなぁ、太一。昨日は確かにそうだったんだが、あのあと私たちは正式に…」
「紅さま!!」
 のぞみは慌てて太一を下ろすと、こづえのときのように誤解を招くような宣言をしようとする紅の口を両手で塞ぐ。だが、すかさず紅に抱き上げられてしまい声をあげた。
「きゃっ!」
「照れ屋だなぁ、のぞみは。だが、幼子だからといって思わせぶりなことはだめだよ。あとから傷つくのは太一だからね」
 紅が腕の中でじたばたと暴れるのぞみに向かって愉快そうに囁く。のぞみは大人げないことをすると、彼を睨んだ。
「紅さま!無理強いはいけませんよ!!」
 別の角度から立腹をして、志津も青筋を立てている。
 紅はそんな二人のことは気にも留めずに優雅に微笑んで、子を預けて仕事へ向かおうとするあやかし達に向き直る。そして、嬉しそうに口を開いた。
「皆んな、忙しい時間に申し訳ないが聞いてくれ。今までのぞみが私にとって何ものなのかを、疑問に思っていた者も多いと思う。実際、私たちの関係は私たちの間でも曖昧なところがあったのだが、ついに昨夜はっきりしたんだ。のぞみは、いずれ…そう遠くない将来に、私の妻になることを受け入れた。つまり許嫁といったところだな」