「じゃあさっそく、アパートへ戻って婚礼だ」
 初めての口づけの余韻が残りまだぼんやりとしているのぞみに、紅が嬉しそうに囁いた。そして今にも抱き上げようとするのを、はっとしてのぞみは止めた。
「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい!婚礼って、そ、それはつまり…?」
 ふふふと笑って、紅はにっこりとして頷きかける。
「もちろん、子を成すためのアレだよ」
「ちょ、ちょっと待って下さい!!」
 のぞみは必死になって声をあげる。
 ついさっき心が決まったばかりだというのに、いくらなんでも展開が速すぎる。
 一方で紅の方はというと驚いたように眉を上げて、あぁ、と言ってからまた微笑んだ。
「あやかし同士が夫婦になるときは人間のように、大っぴらに儀式をしたりはしないのだけど、もちろんのぞみは人間だからきちんとした婚礼もあげようね。子どもたちも呼んで盛大に。でもまずは何はともあれ…」
 再び抱き上げようとする紅の腕の中でのぞみは精一杯身をよじる。そして両手で彼の胸を押し返した。
「だから!どうしてすぐにそうなるんですか!!」
「だってもう我慢できないよ。今までだって散々焦らされてきたのに…」