「まったく…、無理はしないと約束しただろう?」
 彼にしては珍しく小言のようなことを言いながら、紅がのぞみの膝に消毒液を湿らせたガーゼを当てる。
 のぞみはその痛みに少し顔を歪めて、「すみません…」と謝った。
 仕事が終わったあとののぞみの部屋である。いつものようにアパートまで送ってくれた紅は、繋いだ手を離さなかった。
 手当てをするから部屋まで行くと言う彼に、のぞみは真っ赤になって首を振ったが、いうことをきかなければ明日からは外遊びはなしだと言われてしぶしぶ部屋に招き入れた。
 そして追い立てられるように風呂に入り、今手当てを受けている。
 仕事中はそれほどでもないと思った傷はよく見ると、思ったよりも深かった。それから自分でも気がつかないところあちらこちらに打ち身ができている。
 紅がとくにひどい太もものアザに視線を送って顔をしかめた。
「のぞみが手を出すなというから黙って見ていたけれど、本当に気が気じゃなかったよ。他のことは何も手がつかなくて、おままごとのお父さん役も失格だとかの子に言われてしまったよ」