「太一を受け入れて下さって、ありがとうございます。あやかしたちからの苦情も、うまくやってくださって…」
「保育園のためだもの」
 なんでもないことだと紅は首振る。
 その時、のぞみがパタパタと足早に離れの風呂へ向かう様子が見えた。
 深夜に風呂に入るのはちょっと怖いけれど、汗を流さずには寝られないと言っていた。それなら付き添ってやると言ったら、真っ赤になって頬を膨らませたのを思い出して、紅の口元が自然と緩む。
 紅は志津を振り返った。
「太一のことは、あまり心配しなくていいよ。急かさなければ、なんとかなるだろう」
 紅が微笑むと、志津がコンと鳴いて頷いた。そして紅の視線の先をじっと見つめた。
「良い方ですね。可愛らしくて…」
「そうだろう? それにすごく頑張り屋さんなんだ。子どもたちにも好かれているし。太一のことも彼女がいればきっと何かいい解決方法が見つかると思う」
 少し得意げに言う紅に、志津が切れ長の目を瞬かせた。
「紅さまは、少し変わられましたね」
 志津の言葉に紅はわずかに眉を上げた。
「そう? …老けたかな」
「まぁ、ふふふ。昔は…いえ昔もお優しくはありましたけれど、どこか近寄りがたいものを常に背負っていらっしゃいました。今みたいな柔らかい表情の紅さまは、初めてでございます」