「なっ、なんで自分は良くて私はダメなんですかぁっ!?」

「改めて他人がやってるのを見ると、ああ痛いなって思う……」

冷静な返答だった。

「だが、オレはこの道もう長いんだ、昨日今日厨二病を発症したワケじゃない! つまり、治そうとかそういう風には一切思わん!!」

犬神先輩、自分が厨二病だって理解してるんだ。
そしてもう清々しいまでに開き直ってるんだ……。

「ほら、そんな事より早く家の中に入るぞ」

「えっ? あっ、は、はい」

良かった。
なんとか私が先輩のストーカーだという事実からは、目を逸らす事が出来たみたいだ。

「玄関の横に漬物石があるだろ? その下にスペアの鍵があるから」

門扉を入ってすぐのトコロに、大きめの石が確かにあり、それをどかすと家の鍵があった。

「あっ、でも、私勝手にお家に入っても大丈夫なんですか?」

突然見ず知らずの、デカいスポーツバッグ持った女が家に入って来たら通報待ったなしだろうし、私なら何より恐怖しかない。

「ああ、大丈夫だよ」

「はぁっ……ホントですね?」

先輩に促され、仕方なく私は鍵を使って玄関の扉を開けた。

「お、おじゃましま~す……」

そうっと扉を開く、するとそれと同時に先輩は勢い良くカバンから飛び出して家の中へとサッサと入って行ってしまった。

「えっ……!? ちょっと先輩っ!?」

私はその後をゆっくりと追った。
家の中は静まり返っている、誰かいる様な気配は一切無い。

「先輩……?」

一番奥の部屋の扉が中途半端に空いており、覗き込むとそこにはぬいぐるみの先輩と私の良く知る人の姿をした先輩がいた。

先輩(人の方)は、ジャージ姿で白目を向いて天井を見つめている。
おそらく、中学の時のジャージ。
胸には犬神という苗字と3-Cと書いてある。

いるよね、中学のジャージ寝間着にしちゃう人、先輩そのタイプだったんだ……。

でも良かった、裸とかじゃなくって。

私がホッと胸を撫で下ろす中、先輩(ぬいぐるみ)は人の自分を呆然と見つめていた。

やはり、先輩の意識はぬいぐるみに入ってしまったという事なんだろうか?
この状況から見た限り、それで間違いは無さそうだ。

「あの……先輩……」

ぬいぐるみなので先輩の感情は、表情から全く読み取れない。

目の前に現実を突きつけられて、ショックを受けているのかもしれない。

「大丈夫ですか?」

「ふっ……クククっ……この程度の策略にこの漆黒の堕天使ブラッディクロウが屈するとでも思ったか!?」

そう言いながら先輩は、必死になって人の方の体に頭を擦りつけたり口の中に入ろうとしている。

「先輩……そんな事しても戻れないと思いますよ」