「いっ、嫌だ! や、ヤメロぉぉぉぉっ!!」
「そんな事言っても仕方ないじゃないですか!?」
私はとりあえず、先輩を近くにあったスポーツバッグにぎゅうぎゅう詰め込んだ。
「ぬいぐるみなんだから、抱っこしてけば良いだろっ!?」
「この歳でこんな大きなぬいぐるみ持って歩いてたら、悪目立ちしかしません!」
「そうか? お前なら別に持っていても変じゃないと思うが……」
「なんですか? 私がちんちくりんで小学生みたいだとでも言いたいんですか?」
確かに私はクラスでも一番背が低いし、胸も地平線の様に平らだけれども……
「いや、普通に可愛いと思う」
「えっ? はっ?」
「いや、だからお前普通に可愛いだろ? だから、ぬいぐるみを持っていても変ではないだろ?」
「なっ、ナニ言って……何言ってるんですかっ!? ふざけないで下さい……」
顔が熱くなっていくのが自分でもわかる。
えっ? そんな、なんでそんな事を平然と言えるんだこの人!
いや、今はコアラだ。
ぬいぐるみの……
まぬけな顔したコアラのぬいぐるみは、こちらをボーッと見つめていたが、私は照れ隠しに乗じてカバンへ押し込んだ。
「おいっ、もっと優しく丁寧に扱えないのか!っ!?」
「いいからちょっと黙っていてくださいっ!」
なんとかバッグに先輩を押し入れた私は、先輩のご自宅へと向かう事にした。
「着きましたよ、先輩」
私の家から自転車で約5分。
閑静な住宅街にそこはあった。
「…………おい」
カバンからピョコっと顔だけ出した先輩は、私の方をジっと見た。
「お前……なんでオレんち知ってんだ?」
「そ、それは~……」
何度となくこの家の前まで来ては、先輩がいないか、たまたま出会えたりするんじゃないか、そんな事を期待していた。
とか言うと、何となく恋に一生懸命な女子高生っぽいが、捉え方によっては立派なストーカーだ。
今ここで、私が先輩のストーカーだったとは悟られてはいけない。
「えっと…………」
めっちゃ見てる。
コアラが、もふもふさんが、犬神先輩が……
一かバチか、私は賭けに出てみた。
「フフっ、実は……私も封印されし闇の力を持つモノなんです」
そう言って私は左手で顔を覆いポーズを決めた。
名付けて、犬神先輩に思い切り乗っかってみる作戦!
「…………お前、高校生にもなってそんな事まだ言ってるのか?」
冷ややかなコアラの視線が私に突き刺さる。