いや、もしかしたらもしかしたらの万が一、私のおまじないは関係なく、本当に犬神先輩はそのすごい力を持っていてそのダークなんたらに命を狙われてこんな事になってしまった……とか?
「それで……なんでしたっけ? 悪の組織の名前……」
「んっ……ベルベットフォレストブラッドだ!」
「……さっきと名前違いません?」
「………………」
もふもふ先輩は、小首を傾げて私を見ていた。
「フっ……記憶の封印だな! この右腕の暗黒龍の力さえ解けさえすれば、俺は元の体に戻る事も出来るだろう」
「本当ですね……?」
「えっ?」
「本当にその、暗黒龍だのの力があれば元に戻れるんですね? 本当にそんな力が先輩にはあるんですね?」
私は、じっともふもふ先輩のプラスチックの瞳を見つめた。
「このまま放り出してもいいんですよ?」
「ぐっ…………」
「自分一人で、元に戻れるんですね?」
「わぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」
もふもふ先輩は布団に倒れ込み、ジタバタと手足をバタつかせた。
「協力しろよぉぉぉぉぉっ!! 」
私は察した。
多分、犬神先輩にはそんな力は無いし、悪の組織も存在しない。
恐らく、先輩は所謂厨二病とかいうヤツだと思う。
無駄に包帯を手に巻いたり、何でもないのに眼帯したり、なんかやたら高いトコ登ったりする、アノ!
それを高二で発症させている。
つまり、めちゃくちゃ痛い人なのだ!
「どうりで……」
合点がいったとはこの事だろう。
モデルみたいに長身でスタイル良くて、顔だってカナリのイケメンで……
それなのに、女の子があまり寄っているトコを見なかったのはこういう事だ。
中身が大変残念という、大きな欠点があったから……
私はその場にへなへなとしゃがみこんだ。
運命の人かも!? なんて思ってしまった自分を、今なら引っ張ったいてやりたい。
「なぁ、おい……お前、名前は?」
項垂れる私の頭上から声がした。
「……美織です……月見里 美織(やまなし みおり」
「よし、月見里! お前に頼みがある」
人に頼みがあるわりには、随分と上からな態度だ。
「なんですか? 私、ダークとかベルベットとかのよくわからない設定には付いていけませんよ」
「俺を家に連れてってくれ」
「犬神先輩のお家ですか?」
「俺の体が今どうなってるのか、確認したい」
確かに。
言われてみたらそうだ、犬神先輩の意識が今ココにあるって事は、先輩の体は今どうなっているのだろうか?
……気になる。