私と先輩は、黙って歩き続けた。
どこへ行くとか、どうするとか、そんな事も決めずに。
「学校……遅刻ですね」
「ああ……」
沈黙……。
コレ以上、なんて声をかければいいかわからない。
「…………」
なんとなく、足は学校へと向かっていた。
「犬神先輩……」
何か声をかけないと。
何か……
私がそう思っていると、前方から何かが走って来るのが見える。
「おーいっ……おーいっ……」
手を振りながら黒い影が、ドンドンこちらへ向かって来ていた。
「おーいっ!!」
私は、それがなんなのかわかった瞬間──
あまりの恐怖に声が出なかった。
「────っ!?」
突然、走ってコチラに向かって来たのは、紛れもない人体模型だったのだ!
「やあっ! ちゃんと成功したみたいだよ~良かった良かった」
私は腰を抜かし、犬神先輩が呆然とする中、人体模型が喋り出した!
「お前……まさか……沢渡か……?」
「ご名答~っ! さっすがレンレン~」
「はっ!?」
頭を鈍器で殴られた衝撃が走る。
「いや~、余命宣告受けた時にさ、この魂交換の術を思い出してね~昨日、ギリギリ間に合ったよね~病室でさ~、あっ、途中でちょっと幽体離脱したりしちゃったけど」
「幽体離脱!?」
「そうそう、そしたらいつの間にかずっと行けて無かった部室に行けたりした~」
も、もしかして、私達は昨日幽体離脱した沢渡さんに会ってしまってたのか!?
「でもさ、こうしてまた二人と話せて嬉しいな~」
しかし、なんでよりによって人体模型に!?
「あっ、アノ……何でその、人体模型に……?」
「ぶっちゃけギリギリでさ~、ギリで魂天国行くトコだったよね~で、乗り移れるモノが思いつかなくてさ、すんでのところで隣にあった人体模型君を思い出して乗り移れた!」
どうやらアノ人体模型は学校の備品とかでなく、私のもふもふさんの様に沢渡さんがいつも肌身離さず側に置いてた物らしい。
「はぁっ……」
呆気にとられている私の横で、犬神先輩は冷静に言った。
「沢渡……お前、オレで試したろ?」
──えっ?
試し……た??
「え~っ? なんの事~?」
「本当に魂の交換が出来るのか、俺で試したろっ!?」
「…………ちがいます」
試したんだ。
「あっ、アノ、でもそんな本当に人体模型でいいんですか!?」
「えっ? あ~、大丈夫~気に入ら無かったらなんか別のモノに乗り移るし」
出来るんだ!? そんな事もっ!!
もうなんでもあり!?
「気が済んだら成仏するし……」
「試したんだな……やっぱ……」
犬神先輩はブツブツと恨み言を呟いている。
「まあ、ともかくオレはこれから月見里さんを応援するよ?」
コソっと、私に人体模型もとい沢渡さんが囁いた。
人体模型に応援……
あっ、そういえば……
「犬神先輩!」
私はその時、あのおまじないが成功したら先輩に言おうとしていた事を思い出した。
「んっ?」
今なら言える。
「良かったら、私と友達になってください!」