「それだけ笑えばもう元気だろ?」

先輩、私が落ち込んでたから気を使ってくれたんだ。

「オレはぬいぐるみだ……自分じゃ動けん!」

そう言って突然、私の膝の上でコテンと寝てしまった。

「えっ、ちょっと! 先輩!?」

「明日も学校だろ? 寝るぞ」

「えっ、はっ、はい……」

私は先輩を横にして布団をかけると、少し距離を置いてベッドに入った。

「いいのか?」

「何がです?」

「抱っこしなくて」

「大丈夫ですっ!!」

そんなやり取りをして、瞼を閉じしばらくすると先輩の方から安らかな寝息が聞こえだす。

こんな状況なのに眠れるってスゴいな。

すると、急に私の好奇心に火が付いた。

果たして先輩は、どうやって寝てるのか? ぬいぐるみには瞼が無い。
じゃあ、先輩は──

ふと気になった私は、目を開けて先輩の方を見てみた。

先輩は……もちろん小さく黒いボタンの様なプラスチックの瞳を爛々と輝かせていた。

簡単に言うと、目をかっぴらいた状態で爆睡していた。

見るんじゃなかった……。
少し後悔をして、もう一度眠りにつく。

そういえば、昨日ちょっと変わった夢を見たな~……と、そんな事を思っているウチにいつの間にか眠りに落ちた。


そしてまた──私は夢を見た。


大好きな犬神先輩と楽しげに笑い合いながら手を繋いで歩く、アレ? この夢以前にも……

そしてまた私と先輩の間に、コアラのモフモフのぬいぐるみがある。
私と先輩が手を繋いでいるのはぬいぐるみの手、みんなで横一列になって歩く。

ただ一つ、この前の夢と違ったのは並んで歩く私達の後ろに沢渡さんがいる事だ。

沢渡さんは私達に手を振っていた。
そして、何かを私に向かって言って──

「────っ、おいっ! おいっ!! 起きろっ!!」

誰かが私の頬を抓ってくる。

「……ぃっ、いひゃい……」

「起きろっ! 月見里!!」

私は、未だ覚醒しきらない頭をなんとか起こそうと必死になり、そしてようやく瞼を開けた。

「月見里……オレ……」

「────────っ!?」

そして、目の前にいる人物を見て、声にならない悲鳴を上げた。

「い、犬神……先輩……ですよね?」

そこにいたのは、紛れもない犬神先輩だったからだ。

先輩のお家で見た、中学のジャージ姿の犬神先輩。
ココで私は再度思う、ホントに裸とかじゃなくて良かった……。

でも、今はそんな事に安堵している場合じゃない。

「えっ……ちょっと待ってください……えっ?」

「オレにも何がどうしてこうなっているのかわからん、とりあえずオレは元に戻ったみたいだが……」

もふもふさんは見当たらなかった。