「……っ!? 先輩、聞いてたんですか!?」
「一部分だけな、お前が勘違いを認めないと俺が戻れないとかどうとか言って、その後落ち込んでただろ? 何を勘違いしてるのかは知らんが……まあ沢渡の事だ、なんか言われたんだろ?」
プラスチックのボタンみたいな目が、私をじっと見つめている。
ぬいぐるみのもふもふさんの瞳なのに、何故だろう……今は、犬神先輩に見つめられている気がする。
先輩への気持ちが溢れた。
初めて会った日の事、言葉を交わした事。
先輩の事を遠くから見つめていた時、先輩について調べては一喜一憂していた時……。
あの時間が全て、勘違いだったの?
「……私のせいで、先輩はこんな事になってしまったんです……でも、私……私の気持ちは……」
あっ、ダメだ。
また涙が止まらなくなる。
ぽふぽふと頬にまた、柔らかな感触がした。
「わかったからもう泣くなよ、そんなら、他に元に戻す方法探せばいいだろ?」
「先輩!!」
私は先輩を思いきり抱きしめた。
「放せっ!! 苦しい~っ!!」
今の私には、先輩への気持ちを勘違いでしたと言って諦める事なんてすぐには出来そうにない。
「先輩……絶対元に戻す方法、見つけましょう」
「ああ……」
何かきっと、絶対他にも方法はあるはずだ……
絶対に……
「でも……もし無かったらどうしよう~……」
再び泣きそうになる私の額に、先輩が思いきり鼻をぶつけて来た。
ちなみに鼻は、もふもふさんの体の中で一番硬い部分だ。
「いっ、痛ぁぁぁぁぁぁいっ!!」
「お前がそんなんでどうすんだっ!? オレが不安になるだろうが!!」
た、確かに。
元に戻れ無かったら困るのは先輩の方だ。
「あっ! そう言えば……先輩のご両親とか家族の方とかは大丈夫なんですか!?」
「ああ、父さんは仕事で自宅にはほとんどいないし、母さんは小学生の時に病気で死んでんだ、だから家にはほぼ一人暮らしみたいなもんだ」
「そう、だったんですか……」
今朝行った時、お家の中がガランとしていたのはだからだったのか……
「問題は学校だろ、あまり長くは休めないだろうし……」
「そ、そうですよね……」
学校。
やはり一番の問題はそこかもしれない。
「とりあえず、今日は疲れたもう寝るぞ」
「あっ、はい……」
私は、そこで今更になってこの状況を冷静に考えていた。