いつの間にか、私は自宅へと帰って来ていた。
犬神先輩をバッグに詰め込んで、旧校舎を出たとこはなんとなく覚えているのだが、沢渡さんに挨拶をしたかどうかとかあの後何を話したかとかはイマイチ覚えていない。
帰り際、沢渡さんから
「まっ、また何かあったらコレでも見なよ」
そう言って、予言の書と書かれたあのノートを押し付けられた事はなんとなくだが覚えていた。
でも、そんな事よりもハッキリと、私の脳内には沢渡さんに言われた言葉がずっと響いている……
「キミのその恋は勘違いだったってね」
繰り返し繰り返し頭の中で、何度も。
用意された夕飯も、手を付ける気にはなれず。
なんとかお風呂に入ってあとはただ、自室でぼーっと考えていた。
なんだろう。
思い出す度、私は凄くモヤモヤした気持ちになる。
犬神先輩のどこが好きだとか、何が良かったのかとか聞かれると、ハッキリとは言えないけど、私が犬神先輩を好きだというこの気持ちを、私は本物だと思っていたから……。
でも──
「蓮を元に戻す方法はね、キミが蓮をちゃんと諦める事が出来たら……そしたら蓮は元に戻るよ」
あんな事言われたら……
やはり、諦めるしかないのだろうか。
「おいっ! おいっ!!」
私の頬にもふもふとしたモノが当たった。
「お前、さっきから何ずっとボーッとしてんだ!?」
犬神先輩がぽふぽふと、私の頬に手を当てている。
「……うっ……ぐっ……」
「おっ、おい!! お前泣いてんのかっ!?」
「うっ……うぅっ……うわぁぁぁぁぁんっ!!」
私は思わず犬神先輩をぎゅっと抱き締めて、その体で鼻水と涙を拭った。
「うぉい!! 何すんだっ!?」
涙が止まらない。
そんなにすぐに諦めろって言われて、諦められない。
「わ、私~勘違いじゃないです~っ! でも、勘違いだって認めないと先輩がぁぁぁぁ~っ!!」
「何言ってんだか全然わかんねー……」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」
しばらく泣き続けようやく落ち着いて来た頃、私の涙やら鼻水やらで湿った感じの先輩が言った。
「なぁ、俺にはお前が何をそんなに泣いてんのかわかんねーけどさ、お前はその勘違いって言われてそれに反発する気持ちがあんだろ?」
「反発……」
そうかこのモヤモヤの正体は、反発心なのか。
「じゃあ、お前自身は少なくとも勘違いだと思ってないんじゃないのか?」
「……思って……ないです」
「なら、とことん突き通してみたらどうだ? 勘違いだったとしても、自分の正直な気持ちに向き合った方が良くないか?」
「犬神先輩…………で、でも……」
それだと……私が先輩を諦めなきゃ、先輩は元に戻れなくなっちゃう!
「それに、俺ももう少しこのままこの状態を楽しんでみようと思ったからな!」