「わぁぁっ!! もしかして、レンレン~!? キミ、レンレンだよねっ!?」

沢渡さんは立ち上がり、未だ膝を付いたままの犬神先輩を後ろから抱きしめた。

「おいっ! ヤメロぉっ!! 離せ~っ!!」

「……あの、沢渡さん?」

「こんなぬいぐるみになっちゃったとはね~、うんうん、でもいつもより可愛いくて良いんじゃない?」

沢渡さんは私達の声などまるで聞こえてないといった感じで、犬神先輩の耳を引っ張ったり手足をフニフニと上げたり下ろしたりしている。

「こんなになったのは、お前のアノノートのせいだろうがっ!?」

「えっ? ノート? まっさかぁ~だってアレただの普通のノートだよ~」

「はぁっ!? お前まさか……また、オレを騙したのかっ!?」

また──?
んっ? 今、またって言った?
まさか、沢渡さんから変なモノを買うの初めてじゃないの!?

「そんな怒らなくても~、ちゃんとお金いつも返してるじゃない」

いつも──!?
いつもって言ったよね!?
やっぱり、この二人って……

「あっ、あの!! ちょ、ちょっと待ってください! 沢渡さんと犬神先輩って……もしかして、お友達なんですか?」

今のこの状況がよくわからず、とりあえず一番の疑問を二人にぶつけた。

「うん!」

「……違うっ! コイツはただの詐欺師野郎だっ!!」

二人の答えは食い違っているが、知り合いである事は確かみたいだ。

「僕とレンレンはね、クラスメイトだよ」

「クラスメイトとは言っても、コイツは休んでばっかでほとんど学校には来ない!」

「僕には学校の勉強よりやりたい事があるんだも~ん」

「どうせまた、怪しげなモンでも作ってるんだろうがっ!? オレはもうダマされんぞっ!!」

めちゃめちゃ知り合いじゃん……。

「でね、レンレンはほら、この通りの人だから~いつも遊んであげてるの」

沢渡さんは満面の笑顔だ。
一方、そんな彼に抱きしめられたままの犬神先輩はもう反論する気力すら失っている。

「あの、さっきノートは普通のノートって言ってましたよね? それって『予言の書』の事ですか?」

「そうだよ~、アレはただのなんて事ない普通のノート」

「じゃ、じゃあ、ココに来いというアノメッセージもやはりお前か!?」

「そっ! ていうか、前回の『ラグナロクの教典』の時も、ココに呼んでネタバラししたでしょっ?」

前回──!?
『ラグナロクの教典』!?
そんな、毎度毎度同じ様なもんで釣られてるの!?

「ちなみに~『ラグナロクの教典』は、ただの和英辞典だったんだけどね~」

……そんな事があったというのに、またまんまと騙されてるというのか!?
っていうか、犬神先輩はホントのアホなの?

でも……『予言の書』がただのノートなら……

「じゃあ……やっぱり、犬神先輩がこうなったのはノートのせいじゃないって事……」