あちこちに怪しげな魔法陣が貼られ、机の上には魔術の本が……とかでは全く無い。

老朽化したこの旧校舎の中では異質な程に、真新しく整然としていて、机の上にあるのはPCとパッド、それに繋がる機械が数台。
その前にはやたら座り心地が良さそうな椅子。

それだけ……。
オカルト研究会らしさは全く無い。

ただ一つ、この人が今抱きしめてる人体模型を除けば……

「ココが部室?」

「うん、そうだよ~最近はね、オカルト研究会っていったって情報の取得や発信は全てネットだからね」

「……ぉぃっ」

バッグの中から、今まで静かにしていた犬神先輩の声が微かに聞こえた。
私は沢渡さんに気づかれないよう、耳をそばだてる。

「……ノート……アイツだ……俺に買わせたの」

「えっ……!?」

「ねぇねぇ、ところで~……君たちこそ、僕に用事があったんじゃないの~?」

ぐっと、沢渡さんは私に顔を近づけて来た。
本来ならこんなイケメンに、ここまで至近距離で迫られたらときめいてしまうトコかもしれないが、今はそんな雰囲気ではない。

むしろ、少し沢渡さんを警戒していた。

さっき、先輩は私とは初めてだと言っていた、今も君たちと複数系で言っている。

つまり、この人はこのバッグの中の犬神先輩の存在を知っている!? という事だ。

もしかしたら本当に、犬神先輩の言う様にこの人が全ての元凶で、更に先輩の言う怪しい組織に所属していて、世界を支配しようと目論んでいる可能性だってあるかもしれない。

私は思わずバッグを抱きかかえた。

「……ねぇねぇ、僕に用事あるんだよね?」

迫ってくる沢渡さん、私には逃げ場がない。
けれど、今はなんとしてでも犬神先輩を守らなければ……
なんせ、犬神先輩は無力なぬいぐるみなのだから……

なんとか犬神先輩だけでも、助けてあげれないだろうか?

そう思った瞬間────

「うオラァァァァっ!!」

「ゲフッ!!?」

ドタンっ────!!

突然、バッグから飛び出た犬神先輩が、思いきり沢渡さんの顎に激突し、クリティカルヒットをかました。

「フンっ……見たか!? オレのボディアタッククラッシュハリケーンをっ!?」

変に長い技名だが、ただの体当たりだ。

「いっ……痛たたっ……も~……いきなりナニすんのさ~」

しかし、そんな長い技名のワリには沢渡さんはノーダメージだ。
それもそうだろう、ただぬいぐるみが顔に当たっただけなのだから……

「くっ……この俺の技が効かないとはっ……」

犬神先輩は悔しそうに、片膝を床につく。
(多分……アレは膝だと思う)