「いや、こんなもの書いた覚えなどないが」
「旧校舎の二階、旧校舎って……」
ふと、教室の窓からちょうど見えるその建物に視線を移す。
木々の間から見える木造の校舎。
数年前までは使われていたそうだが、老朽化で今は立ち入り禁止になっていたはずだ。
しかし二階の一番奥の部室、そうノートにはある。
部室という事は、部活の部屋という事だが、立ち入り禁止の廃屋の校舎で、一体何部が活動しているというのだろう……?
「確か、幽霊が出るとかいう噂ありませんでしたっけ?」
背筋に冷たい感覚が走る。
「なんだ、もしや幽霊が怖いのか!? そんなもんいるわけが無いだろう……」
そう言って先輩が小刻みに震えているのを、私は見逃さなかった。
「ともかく……ココへ行ってみましょう」
そう思い立った時ちょうど、チャイムの音が耳に届いた。
「あっ、そうだ忘れてたっ……!」
すっかり授業の事を忘れていた。
このままでは、学校に来ているというのに欠席扱いにされてしまう。
「とりあえず、授業が終わってから行きましょう」
私は先輩をバックに詰め直すと、自分の教室へと向かった。
「おいっ、オレはどうなるんだ!?」
詰めてる途中、先輩からは抗議の声があったが、まさかぬいぐるみを教室に置く訳にもいかないだろう。
「今日は、とりあえず欠席という事で……」
私はまだ反論する先輩を無視して、急いで自分の教室へと向かった。
その日は──
なんとか授業には間に合ったし、欠席にはならなかったし、良かった。
良かったといえば良かった。
けれど、授業中に先輩が急に……
「きぇぇぇぇ────っ!!」とか奇声を上げたり、バックから顔を出したり入れたり、まるでゲームセンターにあるワニが出て来て引っ込むゲームのような動きをしていたせいで、全く! 全くもって授業に身が入らなかった。
お昼休みも、「腹が空いたぁぁぁ~っ」(ぬいぐるみのくせに)とかいう先輩の為に、購買で買ったパンを与えてご機嫌を取ったりしつつ、午後の授業はまた突然奇声を上げる先輩に、2、3発膝蹴りを食らわせて黙らせたりした。
本当に、本当に大変な一日だった。
「全く、先輩のせいですよ……」
ようやく迎えた放課後、私は誰も廊下にいない事を確認しつつ先輩に向け抗議した。
「なんで奇声上げたりするんです!? 私、絶対変なヤツだと思われちゃったじゃないですか!?」