彼と話さないのが違和感だったのは、ほんの1週間だった。次の週には得にも感じなくなっていた。最近変わったってきたことがもう一つあった。佐倉さんの周りで食べていた人が減ってきた。みんなで食べていた時と比べるとはるかに少なくなっている。私は呼ばれたら別のところで食べたりとふらふらしていた。

「今日は一人で食べてるの?」

「そうですね、ひまりちゃん委員会の当番に行っちゃっいましたし」

これが佐倉マオとの初めて交わした会話だった。珍しく一人で食べてるのを見て、気まぐれに声をかけただけだった。この日は彼女と二人っきりでお昼を過ごした。

「木村さん、他の子と食べなくていいんですか?」

「木村さんなんてやめてよ、明日香でいいよ。私もマオって呼びたいし」

「明日香ちゃんでもいいですか?」

「別にいいよ。あと私は自分の食べたいところで食べてるただそれだけだよ」

「そうですか、ありがとうございます」

それから特にしゃべることもなかったので、お互いに口は開かなった。スマホをいじっているうちに昼休みの終わりを告げる予鈴がなった。
それからは、たまにマオと一緒にお昼を食べた。時々、ひまりって子がいたけどあまりしゃべらない子だった。今まで、知らなかったけどこれくらいが私は落ち着くのかもしれない。しゃべりたいときにしゃべる、それぐらいが私にあっていた。

私はあまり頭がよくないから、小テストで酷いことになっていた。なので、小テストでクラス1位を取っていたひまりに教えてもらえるように頼んだ。断られるかと思ったが案外簡単に承諾してくれた。お互いの開いている日は次の小テストに間に合うのは休日しかなかったので、私の家でやることになり、近くにいた、マオも誘ってみたらとても喜んでくれた。

「「お邪魔します」」

「はい、どうぞ」
勉強会当日、時間ぴったりに二人はうちに来た。玄関からそのまま自分の部屋に案内した。

「木村さんはどこが分からないの?」

「ここから、ここまで」

と言って、教科書のページに指をさす。

「ほとんどですね。では、最初から」

ひまりの教え方は誇張かもしれないが先生よりも上手かった。そのおかげかもしれないが。予想以上に勉強がはかどった。

「後は、前日にここら辺をやっておけば何とかなる」

「ひまり、今日はほんとにありがと」

「いえ、私は何も」

ひまりはそういっていたが、少しほほが緩んだような気がした。もっと笑えばかわいいのに残念だなと思った。私がひまりに勉強を教えてもらっている間、マオは厚い本を読んでいた。きっと、魔法関連のものなんだろう、ちらっと覗いてみたけど何が書いてあるのかさっぱり分からなかった。

「「お邪魔しました」」

「うん、今日はありがと。また学校で」

勉強終わって、少ししゃべったところで会はお開きとなった。


次の小テストはとても点数がよかった。ひまりへのお礼に飲み物をおごろうとして、自販機に向かっているとき、途中で清水を見た。ちらっと見えただけだが、何やら女子と二人っきりの様子だった。

その場では、もう他の女子と仲良くなってるのかと思っただけだった。しかし、教室に戻って、時間が立つたびに感情が大きくなってきた。私に言ったあの言葉は何だったのかから始まり、考えはまとまらずに大きくなっていく一方だった。最後には、なんか悔しくなってきた。どうせなら、あそこで私が引き留めてれば、あるいは私が連絡を取っていれば、あそこにいたのは私だったのかな?と考えが進んでいった。まるで、私が清水を気にしていたかのように。

その日の午後、初めて学校をさぼった。先生には仮病をついたが特に何も言われず、帰ることができた。家はまだ誰もかえってなかった。

 ふざけるなと、部屋のぬいぐるみたちにあたった後、気付いたら眠ってしまっていた。家のチャイムで私は夢の世界から引きずり出された。無視しようかと思ったが、今家には自分しかいないことを思いつくと、仕方なく玄関へ向かった。

「体調は大丈夫?」

うちに来たのはマオだった。

「どうしてマオが?」

「早退したって聞いて心配したの。とりあえず元気そうでよかった」

「体調は大丈夫だよ、学校はめんどくさくてさぼっちゃった」

せっかく来てくれたので、部屋に招いた。部屋に入って最初に切り出したのはマオの方だった。

「明日香ちゃん、何か思い悩んでることありません?」

「え、そんなことないよ」

「特に異性のことで」

「え、なんでそのことを?」

 核心を突かれた私は素直に認めるしかなかった。私の質問にマオは得意げな表情をつくっていった。

「なぜって、それは私が魔法使いだからとでも言っときましょうか」

「占いみたいなこと?魔女ってすごいね」

「いえ、勘です」

「勘なの?」

拍子抜けした、てっきり難しいことやって導き出した結果と思ったのだが、ただの勘だった。

「今ただの勘と思ったでしょ。そもそも魔法使いになれる素質は勘または第6感と呼ばれる力がどれだけ強いかだから。その中にも細かな区分けがあるんだけどね」

「そうなんだ」

なにもよく分からなかったが、要するにマオの勘はすごいってことだろう。

「だからね、明日香ちゃん。私ならその悩みを解決できるかもしれないの、相談してみない?」

「それも、魔法使いだから?」

「そう、見習いだけどね」

そういいながら、マオが見せてきたのはマオの顔写の乗ったカードだった。魔女にも免許があることは知っていたけど、本物を見るのは初めてだった。

「それと、明日香ちゃん。もしかしたら、解決のために魔法を使わなきゃいけなくなるかもしれないから。私を魔法使いとして、相談してくれると嬉しいな。もちろん、無理にとは言わないよ」

ここまでやってくれてるし、ここ最近一緒にいるからマオのことは信頼できることは分かっていた。

「マオだったら話せるから、相談乗ってくれる?」

「もちろん、じゃあ、改めてきくね。明日香ちゃん恋に困ってない?」

「うん、相談に乗って魔法使いさん」

「承りました!ちょっと準備するね」

そういったマオは持ってきたカバンの中から様々な小道具を出し始めた。見たことないようなものから、おとぎ話の魔女が使ってそうなものまで、それらを布を引いた机の上に並べる。最後に大きなとんがり帽子をかぶった。私はこの時に初めてマオが魔法使いだと実感した。

「それで明日香ちゃんは何を悩んでいるのかな?」

「えっと」

最初は言葉がうまく出てこなかったが、最後の方になるころには思ってることをすべて言葉にできた。マオが来ていてくれると思うと、言葉が出てきやすかった。

「はい、ありがと。明日香ちゃん全部聞かせてくれて」

全部しゃべりきると、ドッと疲れを感じた。

「つまり、自分の気持ちが何なのか知りたいと」

「う、うん」

「私もあまり練習していないから、うまくいけるか分からないけど」

そういいながら、取り出したのは石ころだった。すぐそこの道ころに落ちて居そうな感じだった。

「はい、これ手で持って、そう、両手で、そして清水君を思い浮かべて」

マオに言われた通りに石を持ち、彼を思い浮かべる。私の体勢が整ったところで何やらマオが唱え始めた。すると持っていた石が割れた。二つにきれいに割れた。

「あー、やっぱり、明日香ちゃんは恋してるよ」

「え?」

「えっとね、それは一つの感情に反応する石なの。主に喜怒哀楽の四種類あるんだけど、これは喜の中の大切って気持ちに反応する。だから、割れたってことは、そういう気持ちを彼に持っているってこと。もちろんこれは100%ではない、けどそこらの占いよりかは高い確率だよ」

 恋してるってことを言われても驚きはしなかった。私も薄々感じていた。でも、信じられなかった、ただ話をしていただけなのに、あの言葉だけで恋をしてしまうなんて。でも、やっぱり、これは恋だったのか。

「マオちゃん、私、好きなのかも清水君の事」

「うん、助けになったならよかったよ」

「やっぱり、清水君に直接会ってきいてみる。それで、もし、勘違いじゃなったら、私頑張ってみる!ありがとうね、マオ」

「まだ、終わりじゃないですよ。むしろ私の得意分野はそっちですからね」

それからは、マオにおまじないをかけてもらった。そのあとのマオの説明だと、マオは恋愛分野が得意で確立を上げる力があるらしい。そしてこの力は、使う人にとっては味方になるけど、その分制約があった。

おまじないの後は一緒に明日の作戦を立てた。そこは魔法使いではなく友達としてのマオがいた。