私たちのクラスの週番は、横の席の二人で行う。仕事内容は授業前のあいさつと、黒板けし、日清を書くことくらいだ。中学比較しても特に変わったところはない。そして、当番だからだと先生から雑用を頼まれるところも変わっていなかった。

 週番も最後の金曜日、担任のいる国語研究室に日誌を届けに行くと、先生から倉庫の掃除を頼まれた。私は掃除をする気なんてなかったが、部活をさぼれると考えた清水君が勝手に引き受けた。先生は簡単に面倒ごとを請け負ってくれる人が現れてご機嫌だ。

「木村さん、俺が勝手に引き受けたことだし。帰っても大丈夫だから」

 掃除道具を取りに行くためにいったん教室に戻ってるときだった。

「やる気はなかったけど、一緒にやるよ。清水君一人だと何も終わらなさそうだしね」

「掃除くらい、できるよ」

「ええ、ほんとかな?」

なんやかんやしているうちに教室についた。荷物を掃除道具に持ち替えて、先生から指示されたところに向かう。先生から言われたところは教室すぐ近くの階段だった。階段の下のスペースが小さな物置みたいになっていた。

先生から借りてきた鍵で錠を開けて中に入る。ほこりだらけになっているかと思ったが、思っていたよりかはきれいだった。でも、ところどころ埃がたまっているので掃除はしなきゃいけなそうだ。

彼にはバケツに水を入れてきてもらうように頼み、その間に私は棚から埃を下ろし始めた。そうしているうちに彼も戻ってきて、箒をかけ始めた。最初はお互いに黙々と掃除を始めたが、そのうちに会話が混ざってきた。

「木村さんはどこか部活入ってるの?」

「私は茶道に入ってる」

「そうだったの?今日、部活あったんじゃあ」

「大丈夫だよ。部活は火曜日だけだから」
「そっか、ならよかった」

彼は慌てたが、今日は部活がなかったと聞くと、胸をなでおろした。

「清水君は部活が嫌いなの?」

「え、どうして?」

「だって、これを引き受けたのは部活さぼれるからって言ってたじゃん」

「あー、たしかに。でも、部活は嫌いじゃないよ。しいて言えば疲れるのが好きじゃないだけ」

「そうなの?よくわかんない」

私には難しい話だった。確かに疲れるのが嫌いってのは分かるけど、なぜ疲れるって分かっていても部活にはいったのだろうか。やっぱり、私には理解できない。

「木村さんは、にも好きなものはあるでしょ」

「うん、まあね」

「でもそれを毎日続けるとしたら、ちょっとは違うことしたい日もでてくる。だから、子の掃除受けたのもそんな感じだよ」

たしかに好きなものであっても、毎日は途中で一日くらいは飽きてしまうかもしれない。毎日でも続けたいってものに出会えたらの話だけど。今まで熱中できるものにはであったことがない気がする。私は何かに熱が入っても大体三日もたてば、熱は冷めてしまっていた。

「これくらいでいいんじゃないのかな」

「そうだね」

話しているうちに一通りの掃除は終わっていた。

物置から出て鍵を閉める。部屋も小さかったので、掃除自体は30分もかからなかった。カギを返すのと、掃除道具をかたずけるので二手に分かれることになった。彼はまだ部活が終わっていな時間だったので、途中から部活に参加するらしかった。なので、私は時間のかかりそうな鍵を先生に返しに行くのを選んだ。掃除道具をすべて彼に預けると鍵一つを持って国語腱教室に向かった。

自分の所属と目的を伝えて、部屋に入っていく。先生は自分の席で優雅にコーヒーを飲んでいた。

「お、木村。もう終わったのか。ご苦労様」

「先生も手伝ってくれたら、もっと早く終わりましたよ」

「ああ、そうか。すまんな、これでも教師は忙しいんだよ」

はっはっと乾いた笑い声をあげて、一口コーヒーをすすった。

「それに、青春の邪魔はしちゃいけないだろ」

「どうして、掃除が青春になるんですか?」

「おや、違かったか」

そんな話をしていたら、他の机に座っていた先生が担任を呼んだ。ここで会話は終了して、私は部屋から出た。先生たちが高校ではフランクに接してくるように感じる。それに、先生は放任主義的なところが強まった気がする。まあ、私は縛られるよりかはこっちのほうが好きなので気にしないが。

教室に戻ると、もう部活に行ったと思っていた彼がいた。

「木村さん、お疲れ」

「清水君もお疲れ様」

自分の席においてあるバックを取りに行く。とりあえずスマホを開いて掃除中に溜まっていた通知を確認する。

「あのさ、木村さん。この掃除をやったのは部活さぼりたいだけじゃないから。じゃあ、部活に行くから」

それだけを言い残すと彼は教室を出て行ってしまった。急なこと過ぎてあっけにとられてしまう。鋭い子じゃなくとも彼が何を伝えたいのか分かる。もちろん私も分かってしまった。初めて異性に好意を伝えられたけど、まさかこんな感じになるとは思ってもいなかった。

何も考えられない頭の中にさっき先生の言った青春の2文字がぐるぐるとまわっていた。あれで私に、どうしろと言うんだろうか。私はこれで何もなかったかのように、学校で接するのはできる自信がなかった。

家帰った後も、彼の言葉が頭から抜けなかった。連絡を取る方法はあるにはあったが、そんなことをする気は起きなかった。そんな中でずるずると休みは進んでいった。

休みの明けた週初め、やっぱりというか、当然のことながら話すことはほぼなくなって。たまに挨拶をするくらいになった。最近は楽しい友達ができたくらいの感覚でいたのに、その友達はいなくなってしまった。早く席替えしないかなと思ったが、学期が変わるまでは席替えはなさそうだ。