先輩はそこそこ顔がいい。私のフィルター補正がかかっているわけでもなく、一般的に言われていることして。委員会の時にも先輩が委員長しているから入ったという声が聞こえくる。成績は優秀でスポーツもなんでもそつなくこなせるまさに完璧人だった。
 
 あれからも先輩との本を勧めるは続いている。委員会の度に先輩が当番活動についいて毎回触れて、出ていない人に注意をしているので最近は当番活動の出席率も上がってる。私としては余計なことと思ったが、先輩が出てこなかった人が出てきたことを知ると、とても嬉しそうな顔をしているので、この顔が見られるのなら悪くないのかもしれないと思っている。
 
「ひまりちゃんは最近、楽しそうな顔してるね」
 
「そうかな」
 
「うん、とても、楽しそう」
 
 今日は当番活動がなかったので、佐倉さんと木村さんとお弁当を食べていた。最近は佐倉さんがたくさんの人と一緒に食べることがなくなった。その代わりに佐倉さんと仲のいい木村さんが加わって3人で食べることが多くなった。佐倉さんは一緒に食べる人が減るのは自分的には寂しいけど、他の人たちも自分が一緒に食べたい人たちと食べればいいし、人が多くなるとひまりちゃんが辛そうだったからちょうどいいよ、と言っていた。
 
「私もそう思う、なんかいいことあったの?」
 
「明日香ちゃんもそう思う?」
 
 木村さんは私があまり得意じゃないタイプの人だけど、私に合わせて接してくれているので一緒にいるのがつらいと思ったことはなかった。
 
「井上、ごめん、今日の放課後だけ当番代わりに出てくれないか?」
 
 3人で食べてたところに声をかけてきたのは、このクラスのもう一人の図書委員会の男子だった。
 
「ちょっと、そうやってひまりばかりに頼るのはどうなの」
 
「今日ばかりは仕方なんだよ、ちゃんと他の日に変わるからさ。頼む、井上」

「大丈夫だよ」
 
「ありがと、井上」
 
その子はお礼を言うとすぐに教室を飛び出して行った。
 
「もう、ひまりは優しすぎない?」
 
「そんなことはないよ、木村さんもありがとね」

「ひまりがいいんだったら、いいけど」

 最近は先輩と当番で会うことも少なくなっていたから、先輩に早く本の感想を伝えたい。今日、来るのかな?

「あ、ひまりちゃん、また嬉しそうな顔してるね」

「そ、そうかな」

 それから先輩のことを考えて居たら、退屈な午後の授業も一瞬に流れていった。放課後になるとササっと荷物をまとめて教室を出る。一応、あの二人にはあいさつをして。

 図書館委行くとまだ他の当番の人は来ていなかった。先輩だったらいつも自分よりも早く来ているので、今日の当番は先輩じゃなったのかと落胆する。そうそう先輩と被ることはないと分かっていても、いないのは落ち込んだ。

 落ち込んでいても、仕方ないから返却された本を棚に戻すことにした。放課後は一番利用する生徒が少ないように感じる。来ても数人で、来た人は本を借りるのではなく勉強をするのが大半だ。なので、本のかたずけも終わってしまえば、閉館の時間までやることがなかった。

 本を戻し終わっても、先輩どころかもう一人来るはずの委員も来なかった。今日は勉強をしている人もいなく、司書の先生も職員会に行ったため、図書館委いるのは私一人だった。一人であっても、本さえあれば時間などどうにでもなるので、バックから本を取り出し本を読む。この本は先輩に勧めてもらった本で、今読んでいるので3週目だった。いい加減、他の本を読めばいいと思うけど、なぜか他の本を読む気にはならなかった。

「あれ?井上さん」

「あれ、先輩」

そろそろ閉館の時間なので、図書館を閉じようとしているところだった。そこに先輩が入ってきた。

「他の委員は?」

図書館を見渡しながら先輩が聞いてくる。

「今日、来ていないです」

「あー、さぼりかな、ごめんね。井上さん」

「なぜ、先輩が謝るんですか」

「なぜって、一応委員長だしね。これから閉めようとしていたところ?僕も手伝うよ」

 窓の戸締りを確認して、カーテンを閉めて、と図書館を閉める準備をしていく。司書の先生には帰ってこなければ勝手に閉めていいと言われていた。

 最後に図書館のカギを閉める。閉めたカギを図書館準備室に片づけて一通りの当番活動は終わる。いつもなら、これで先輩とお別れだった。

「あの先輩、これ面白かったです」

「ああ、読み終わったんだ。やっぱり井上さんなら面白いって言ってくれるって思たんだよ」

「いつもなら、井上さんのおすすめの本を聞きたいところだけど、もう図書館閉めちゃったね」

 閉まった図書館を見て少し先輩は残念そうな顔をした、ように見えた。先輩も私が本を進めるのを楽しみにしてくれていたのだろうか。

 もしそれが、ほんとだったら。

「先輩、もしよかったら。この後本屋行きませんか?図書館にはない本があって」

「もちろん」

 二人でこの後本屋に行くことになった。本屋は学校とそんなに距離は離れていなかったので先輩と歩いて行った。本屋に行くまでは、部活もまだ終わる時間ではなく、部活に入っていない人達はもう帰ってしまっている時間だったので、誰とも会うことはなかった。

「先輩は本屋とかよくるんですか?」

「もちろんと言いたいけど、最近は来れてないな」

「そうなんですか」

「井上さんの勧める本が面白くて、そっちばかり読んでたからね。もちろん悪い意味ではないからね」

 先輩が楽しんでいてくれたのはとても嬉しかった。さっき先輩と別れるのが嫌でとっさに図書館にない本と言ったが、そんな本があるのかどうかも分からなかった。でも、先輩も楽しみにしてくれているみたいだし、とりあえず何か探そうと思った。
 
 先輩と一緒に本を見るのは楽しかった。先輩と本の話や作者の話と話題に事欠くことはなかった。その中で先輩に勧める本も見つかった。私が初めて読んだ本、この世界に引きずり込んだ元凶の本でもあるけど、大切な本だった。ずいぶんと昔で内容もおぼろげだけど、先輩には絶対に読んでもらいたかった。
 
 先輩に本を買ってくることを伝えて、レジに向かう。先輩が買ってくれると言ったがこの本は自分で買って先輩に渡したかった。自分用と先輩用で同じ本を2冊買った。

「ありがとう、読むのが楽しみだよ」

「はい、感想待ってます」

 外に出たところで、先輩に本を渡した。本を受け取った先輩はあらすじを読んだり、ペラペラとページをめくったりした。

「そういえば、先輩はなんで今日遅くまで学校にいたんですか?当番活動がない日はいつもすぐに帰っているって聞きましたけど」

「ああ、今日は引継ぎの説明が生徒会であったからね。来月の文化祭で僕たちの代は終わりだからね」

「そうなんですか」

「でも、すぐにってわけでもないから。あ、僕はそろそろ電車だから駅に向かうね。今日はありがとう」

「はい、ありがとうございました」

 今日はそこで先輩と別れて自分の家に戻った。なんだか夢のような日だった浮かれすぎて気持ちが飛んで行ってしまいそうだった。でも、期限があることを思うと寂しい気持ちが混ざってきた。

 その夜、久しぶりに読んだ本は、初めての読んだ時の印象と違っていた。明るい本だと思っていた本は、ところどころに闇のある、楽しいだけじゃない本になっていた。