私の所属する1年3組は文化祭の出し物として占いをメインにしたものを出すことに決まった。

 見習いと言っても魔女の私がこのクラスにはいるので、人も集まるだろうってことだった。ホームルームでこの提案出たとき、ひまりちゃんや明日香ちゃんは私を見て少し苦そうな顔をする。私が出しにされていると感じ取ったのだろうか。そんな彼女たちには私は気にしないと伝えておく。

 私は魔女であることをクラスに認められながらもなじめている感じがして嬉しかった。高校の入学前は魔女のことを隠しながら生活することも考えた。でも、今は魔女のことをみんなに伝えてよかったと思っている。

 出し物もおおむねクラス全員の賛成をもらえたので、占いの出し物にすることが決まった。そのあと決まった出し物をもう少し深めたところでホームルームも終わり、部活のない人は下校になった。

「マオ、これから帰り?」

 玄関で靴を履き替えていると、幼馴染の蒼井裕一が後ろに立っていた。

「君も帰るところ?」

 彼が学校で声をかけてくれるのは久しぶりで、私の気分は上がる。それにつられて、少し声がうわぶってしまったが、彼には——気付かれていないようだ。

「そうだよ、今日はちょうど部活もないから」

「じゃあ一緒に帰りましょう!」

「うん」

 彼と高校に入ってから一緒に帰ることは少なかった。何度か帰っている途中に、彼の姿を見かけることは何度もあった。でも、私が一人ではなく友達、ひまりちゃんや明日香ちゃんと帰ってることが多かったので、声をかけることはなかった。友達ができたことはとてもうれしいけど、その陰で遠ざかってしまったものがあるのではないかと不安になるときがある。彼の事のように。

「君のクラスは文化祭何やるの?」

「え、うちのクラスはお化け屋敷だよ」

「そうなんだ、楽しそう!」

「マオのところは?」

「私のところは占いをやるよ」

 私のクラスの出し物を聞いた時の彼の顔は、あの時のひまりちゃんや明日香ちゃんと同じ顔だった。彼は私のことを昔から知っている、いい時期も悪い時期も、だからこそ気にしないようにしてくれているのだけども、彼が顔に出してしまったということはあの時の彼女よりも持った深刻にとらえているからだろう。

「私は大丈夫だよ!クラスのみんなも占いを真面目にやるとかじゃないから。もっと、テーマパークみたいな感じで、ね。楽しく!確かに私がきっかけで思いついたのかもしれないけど、特に私だけが働くとかもなかったから!」

 彼を心配させまいと、言葉を重ねる。

「そうなんだね、ならよかったよ」

 彼は表情とは反対の言葉を口にする。その証拠に彼の顔は曇ったままだ。
 何とかして彼を安心させてあげたいと、顔を覗き込む。私が案を見つけ出す前に彼は顔をそらし歩き出してしまった。家に到着し彼と別れるまでお互いに口を開くことはなかった。

「じゃあ、また」

「うん、またね」

 せっかく久しぶりに一緒に帰れたというのに、残ったのは距離が開いてしまったという寂れた気持ちだけだった。


 あれから、何週間か過ぎて文化祭が近づいてくる。文化祭の準備も進んで教室の前に飾るための看板やら、占いの時に着る衣装など本番に必要なものが出来上がっていく。
 周りは文化史に向かって進んでいるのに、私と彼はあれ以来何も進んでいなかった。せっかく同じ学校にいるのだから文化祭は一緒に回りたかったが、どうしても自分には声をかけれる勇気がなかった。
 もちろん彼は、私が気さくに「文化祭一緒にまわろう」なんて言えば、優しいから有無も結わずに付き合ってくれるだろう。でも、そんな彼の優しさに甘えるのは違うような気がした。この学校に来てから何人もの女の子の背中を押してきた。君ならできる、と。
 そんな、身勝手に背中を押してきた本人は、実際動けだせずにいた。魔女の私は無責任だとののしり、女の子の私は失敗して未来を想像し泣いている。こんな私に、自分はため息がとまらなかった。

 私が動かなくても、時間は進む。文化祭がどんどんと近づいてくる。


 文化祭も近くなったころ、私の勘にあたる人がいた。廊下を歩いているところを見かけてふと気になった。名前は知らないがきっと三年の先輩なのだろう。私の勘にあたる人ならそれなりのものを抱えているのだろう、いつもなら迷わず会いに行った、魔女として力になるならと。
 
 でも、今回の私は違った、直ぐに飛び出せなかった。もし違っていたらどうしようなど、ありもしない未来を予想してしまう。自分の事すら解決できない私が、他人の事なんて解決できるのか。それでも、最後にはただ魔女として行動をした。放課後、部活終わりのところを狙って声をかけた。
 
 彼女に明日の放課後教室で待っていると伝えた。そして、来たのは彼女の同じクラスと言った別の先輩だった。
 その先輩には、魔女の務めをしっかりと果たした。それからもう少し教室で彼女を待ったが日が暮れても来ることはなかった。

 彼女はなぜ来なかったのだろうか。やはり魔女なんて信じれないのか、それとも、見習いである私なんかでは力不足と考えたのだろうか。もし、今の私に悩みを解決してくれる人が現れたりでもしたら、飛びついて助力を願うのに。