私もちょっとずつ、私らしさの入った小説家書けるようになってきた。
学校全体も文化祭のムードになっていった。それが私を焦らせてくる。
——早く、書かなきゃと。

 今日も部活に行くために廊下を歩いているときだった。
今日は委員会での仕事があり、いつもより遅れた時間に、部室に向かって歩いていた。

「あの、すみません」

「何ですか?」

 私は後ろから呼び止められたので、振り返る。後ろで私を呼び止めたのは、一年生の女子生徒だった。顔も知らなかったし、最初は彼女の見間違えと思っていた。

「あの、始めまして、一年の佐倉マオと言います」

「何か私に用でも?」

「えっと……ですね、急にこんな話をされても困ると思いますが」

「なんですか?」

私は早く部室に行って書き途中の厳冬の続きをしたかった。彼女に呼び止められた、理由が分からなかったが、早く終わってほしいと思っていた。

「先輩、何か大きな困りごとがありませんか?」

「え、何のことかな?」

「とぼけなくていいです。先輩は今、大変なことになってるはずです」

「確かに、文化祭の準備で忙しいけど」

「いえ、私が言っているのは。身体的な意味ではなくて、精神的な意味です。何か大きな悩み事がありませんか?」

無論、彼女が言っていることを、私は何のことだかはっきりと理解していた。でもなぜ彼女が私にそんなことを言ってくるのか分からなかった。そもそもなぜ彼女は私が悩みを抱えていることが分かったのだろうか。

「私は、魔法使いなんです」

「そうなの、すごいね」

「先輩、先輩はそのままでいいんですか?先輩は自分の心を隠すのが得意そうで、周りの人にはバレてないと思います。でも、私は先輩一人でそれを抱えているのは我慢できません」

「話は終わった?ごめんね私、急いでるから」

彼女を言ってることは無視して、その場を離れる。これ以上話に付き合う気はない。

「先輩!私、明日の放課後1年3組の教室で待ってますから!」

私が立ち去った後も彼女はしつこかった。魔法使はみんなおせっかいなのだろうか。

部室に行くと私以外は集まっており、各自の活動に移っていた。
みんな、作業も終盤にあるようで、まだ何も進んでいないのは私だけのようだ。先生も他の部員たちのアドバイスや確認とかでひっきりなしに人の相手をしている。

遅れて部活に参加した私は、開いている席に腰かける。
とりあえず、何かネタでも思いつけばいいと思って、ノートと筆箱をカバンから取り出す。
結局、部活が終わるまでペンが動くことはなかった。

部活中、魔女のことが頭に残っていた。放課後に待っている、と言っていた魔女は本気なのだろうか——私が行くわけもないのに。

翌日、昨日何も小説が何も進まなかった……と頭を抱えながら、私は教室に入った。
そこで、何か楽しそうなものを見つけた。何やら仲のいいクラスメイトが考え込んでいる様子だった。
気分転換になりそうだったし、友達が悩んでいるなら私が動かなきゃと、その子の席に一直線に向かった。

「また、何か悩んでる」

「助けてよ、こよりぃ」

彼女は両手を伸ばして私に助けを求めてくる。

話を聞いたら、恋の相談だった——甘ったるい。
私は小説であまたの恋を経験してきたがやっぱり、現実は小説とは違う。それに、中学生に手を出してると聞いてさらに胸やけを起こす。

あー、面倒なことに首入れちゃったと後悔する中で、ちょうどいいことを思い出した。

「放課後、ここに行ってみるといいことあるよ」

彼女のノートに昨日の魔女さんの言っていた教室の場所を書いておいた。
これで、私が無視しても大丈夫だろう——彼女が代わりになる。

話も落ちついたところで、自分の席に移動する。今日は何か進むといいのだが。



放課後、部活も終わり玄関に向かって横日の刺さる廊下を進む。
結局何も進まなかった——考えるほど遠ざかっている気がする。
悩むほど沼にはまっていくようだ。

また、魔女がたっていた。私の方を見るわけではなく、廊下の向こう側に手を振っている。向こう側にいるのは——私の代わりだった。
すっきりした顔をしている、彼女に勧めたことは正解だったようだ。

「あっ」

短い声を魔女は上げた。

見つかってしまった。魔女の視線が私を指してくる。

「先輩、来ませんでしたね」

「私には必要のないことだから」

「そうですか」

私は足を止めることなく、魔女の横を過ぎ去る。

「魔女の力なんてお話だけで十分だし——それにまだ気づいちゃいけないの」

「先輩……やっぱり、」

返答をすることもなくその場を離れる。

魔女が何を言いたいのかは、何よりも自分がはっきりとわかっている。
——そんなの、物語でお腹いっぱいだ。