デート当日、彼は待ち合わせの時間ぴったりにやってきた。

「陸君こっちだよ」

彼を見つけたところで、彼の名前を呼んで自分の位置を知らせる。

「待たせてしまいましたか?」

「ううん、私も今来たところ」

 
 彼が、待ち合わせの時間ぴったりに来ることは何だか、予想がついた。まので、私はそれより少し早く着くようなタイミングで来たので、待ったとしても10分くらいだった。

「じゃあ、映画の時間もあるしいこっか」

「はい」

 待ち合わせの場所から少し歩いたところにお目当ての映画館はあった。

「美咲さんに誘ってもらえてよかったです」

「そうだった?なら、嬉しい」

 映画館につくと彼はチケットを買いに行った。私は待っててくださいと言われたので、端にあった椅子に座って待つことにした。今日の彼は塾に来ている時の服装とは違う服装だった。ちょっと大人びて見える。

「お待たせしました」

「ごめんね、チケットっと買ってもらっちゃって」

「いいんですよ、僕が付き合ってもらっているんですから」

 ここ最近、彼は私にも笑顔を向けてくれるようになったけど、今日ほどの笑みは見たことなかった。その笑顔をずっと今日は見られると思うと幸せすぎた。

 余裕をもって映画館に来たはずだったが、チケットを買って、ポップコーンなどを買っているうちに入場の時間になった。買うものも買ったところでチケットに記された場所に向かう。

 映画館では端の席を選んだ、彼曰く中央の席を選ぶより端の席を選んだ方が見やすいこともあるようで、今日は端のほうがおすすめらしかった。座って、しばらくして予告が始まり、そして本編に入った。私と彼で見に来た映画は外国の推理ものだった。私的には映画館にまで来てみるようなジャンルではなかった、でも思ったより楽しめた。

「今作も面白かったですね」

「私も楽しめたよ」

「そうですか、それは良かったです」

 映画館デートの鉄則だとこの後はどこかのカフェに入って、映画の感想を話すらしい。私の計画でも、この後は彼をカフェに連れ込む気でいた。でも、彼に先を越されてしまった。

「もしよかったら、どこかカフェに入りませんか?」

「うん!行く」

「ありがとうございます。じゃあ、あそこのカフェに」

 彼の今日のテンションは高かった。いつもクールな分、今は年相応になってる気がする。やっぱり彼は中学生なんだなと私は実感した。

 近くのカフェに入った後は感想で盛り上がった。彼は本当にあの作品のファンらしく、予習もしっかりして見に行ったので、内容の読み込みがすごかった。私のよくわからなかったところも解説してくれたので、あの映画の良さを理解で来た気がする。もっと私も下調べをしたうえで見に来たならば、もっと彼が楽しめる話しができたのだろうか。

 それでも話は2時間ほど続いた。それくらいのところで今日は帰ることにした。

 中学生におごられてばかりでは高校生の立場がと思ったので、カフェの代金は私が払った。彼はここも払ってくれると言ったがチケットの話をしたら、しぶしぶおごられてくれた。

「今日はありがとね、とても楽しめたよ」

「それは、こちらのセリフです」

カフェから出た私たちは、待ち合わせをしたところまで一緒に戻ることにした。目的理に向かって、歩道を歩く。

「美咲さんは今日のような作品はあまり見ませんよね」

「もしかして、そんなに楽しくなさそうに見えた?」

「いえ、そんなイメージがあっただけです」

「そうだね、あんまり見ないかも」

 そう私が答えたとき彼は悲しそうな顔をした。

「もしですよ。もし、僕がまた次誘ったら一緒に見てくれますか?」

 彼から出た、初めてのデレた言葉に私の気持ちは高鳴る。もしかして、これは行けるのでは?

「行くよ!絶対」

「ほんとですか、嬉しいです」

 彼から悲しそうな表情消えて、口角は上に向いていた。もちろん、彼からのお誘いなんて、何が何でも私は行くと即決するだろう。その気持ちはまだ揺らいでいない。

「美咲さんは初めて会ったとき、付き合ってくれって言ったのは僕のどこが良かったんですか?」

 まさかの質問だった、今までこれ関係の話題なんて出たことなかったから聞かれた時は驚いてしまった。いったん、彼を引き留めて、歩道の端による。

「えっと、素直に言うと顔だね」

「顔ですか」

「うん」

 彼は信じられないという顔をしているが、これは紛れもない真実だから仕方ない。私は彼の顔を見て彼しかいないと思ったから、あの言葉を言った。

「分かりました、僕の顔で良ければあなたの好きにしてもいいですよ。でも、僕の体もついてきますけど」

「どういうこと?」

「だから、先輩を僕に下さい、僕あげますから」

 たぶん、彼の言っていることは私のあの時の言葉と同じ意味なんだろう。もっと時間がかかると思っていたのに、彼は簡単に私のものになってしまった。

「え、ほんとに?どうして?」

 動揺しすぎて、頭がこんがらがって、目をぱちぱちさせてしまう。今も頭の中からはてなが湧いてくる。

「今日、先輩と映画見たのは本当に楽しくて、もし他の人と先輩がやってるのを考えたら。なんか、自然と声に出てました」

「そっか、本当に今日楽しかったんだね。ありがと」

 彼がそんな風に私を思ってくれるようになったのは、私の努力の賜物かどうかは分からないがとりあえず最終目標は達成できた。

「あと、美咲さん。僕は頭のいい女性がタイプなので大学は行ってくださいね」

 彼は最後に大きなものを私に押し付けて、帰っていった。これで、彼と付き合えたし、塾なんていいかと考えてたのに。あの顔で言われてしまったら断ることなんてできなかった。

 その日、私はまじめに大学目指すことを親に伝えた。

 週明け、クッキーを魔法使いに届けた。とても嬉しそうに受け取ってくれた。クッキーを渡して、教室から立ち去った後、そもそも彼女の名前を知らないとことに気が付いた。また、誰かに聞けばいいかとなって、自分の教室に戻った。

 席に戻ったところで彼氏からメッセージが来てることに気が付いた、たわいのない話の続きだった。ちょうどよかったので、手作りクッキーをあげるよと送ったら、ありがとうの言葉と共に笑顔のスタンプがいっぱい送られてきた。渡したらどんな顔をしてくれるのだろうか。喜んでくれるといいな。

 だって、私の彼氏は笑顔がかっこいいから。