最初にメッセージを相手に送ったのは彼からだった。塾中は電源を落としているので塾終わりにスマホを開いたらメッセージが来ていた。慌てて、メッセージを確認すると『これで、貸し借りなしです』と来ていた。最初に送ってくるのがこの文章なのは彼らしかった。私は『りょーかい』と返しておいた。

 その後もちょくちょくとやり取りをするようになった。送りすぎないように自分を律しながらやり取りをするのは大変だった。そのやり取りの中で、彼には彼女がいないことをしっかりと確認でできた。

 これで、私と彼は友達くらいの関係にはなれたが、私の目指す関係には、達してなかった。そのためには、新たに計画を立てなければならなかった。

 あるとき、彼が興味のある映画が今上映されてるという話を彼から聞いた。それを聞いたとき私はここしかないと、意を決して彼を誘ってみた。すると以外にも了承してくれた。それから、お互いの開いている日をすり合わせた後、来週の土曜日に映画を見に行くことになった。

「どーしようかな」

「また、またなにか悩んでる」

「助けてよ、こよりぃ」

 今週に迫った彼とのデートを前にして、私色々とは決まっていないことがあった。必死に考えようと教室の席で頭を抱えていると、同じクラスの高橋小和が話かけてきた。こちらに来てくれ彼女に今の状態を話す。

「今、そんなことになってるの?」

「うん、そうなの」

「早く、話してくれればよかったのに」

 彼女はおもちゃを見つけた子供のように目を輝かせこちらを見てくる。彼女はこの手の話は大好物なのだが、話すと面倒なことになると、私は知っていたのであえて話してこなかった。

「で、相手って?」

 痛いところを突かれた。さっきの説明の時、私は彼についてぼかしていったのに何故そこを掘り下げようとするのか。この勘の鋭さが私が彼女に話したくなかった理由である。

「それって、必要?」

「もちろん!」

 できれば避けたかったが、今は時間もないので仕方ないしに彼のことを伝えた。

「年下なの?」

「ちょっと大きな声で言わないで」

 急いで彼女の口をふさぐ。周りを見回す、彼女の声が届いた人は居なかった。やっぱり、言うべきじゃなかった。

「それでどうすればいいと思う?」

「えっと、ねー」

 さっきよりも小さな声で彼女に意見を聞いてみる。彼女も今度は声を小さくして私に合わせてくれた。

「男の子って、本能的にママ探すらしいから。ママまでいかなくてもお姉さんらしさを出すみたいな?」

「確かに。でも、彼本物のお姉さんいるってさ」

「いるからこそだよ。血のつながった姉弟がママを感じる訳ないから、男の子の求めるお姉さんになったら、もう完璧だよ」

「おお、とりあえず年上ぽくリードするのを頑張ってみる」

「そうだ、お姉さんだしていこう」

 これが正しいかは分からないが、きっと彼はデートなんて初めてだし、私がリードしてあげれば彼の好感度も上がることだろう。

「あと、願掛け?」

 話は終わったかと思っていたけど、もう一つアドバイスが残ってたらしい。私の筆箱からペンを取り出して、ナートに何か書き込んでいく。

「放課後、ここに行ってみるといいことあるよ」

 そこで、授業の始まるチャイムが鳴った。彼女は急いで自分の席に戻っていった。

「1年3組」

 彼女の書き残したものは、よくわからなかった。せっかく、友達が教えてくれたので行ってみようと思った。でも、いいことと一年の教室がどうして関係しているのだろうか?

 放課後、ちょっと時間が立ったあたりで1年3組の教室へ向かった。扉を開けて教室に入ると女子生徒が一人だけいた。

 彼女は入ってきた私を見て、驚いた顔をした。でも、その顔は一瞬とことで、すべて察したように顔つきが変わった。この顔を表すとしたら、まさしくお姉さんの顔というのがあてはまるだろう。

「どうかしました?」

「えっと、友達にここに来たらいいことがあるって教えてもらって」

「そうですか、その方の言ういいことは私のことかもしれないですね」

「え?」

 詳しい話を聞きそびれてしまった私は、何がいいことなのか分かっていなかった。

「私は魔法使いです。今、実は先輩は恋で困っていたりとかしませんか?」

「なんでわかったの?」

 彼女の口から発せられた魔女という言葉が頭の中で反芻する。

「では、魔女を頼ってみませんか?少しは、応援できるかもしれません」

 全く状況がつかめなかった。でも、今学期のはじめにこの学校に魔法使いがいると言う話は聞いたことがある。きっとその魔法使いってのが彼女のことを指していたのだろう。

「じゃあ、お願いします」

「はい、ではこちらに来てもらえますか?」

 彼女に言われたと通りに彼女の方に私は向かった。何やら、彼女は準備を始めた。一通りの準備が終わったところで彼女が椅子を持ってきてくれたので、私はそれに腰かける。彼女も私の向かい側に座る。大きなとんがり帽子をかぶった彼女は本物の魔女だった。

「もう一度聞きますね、先輩は恋に困っていますか?」

「は、はい」

 そのあとは、簡単に今どんな感じなのかを教えて欲しいとのことだったので、軽く今の状況を伝えた。

「じゃあ、少しでもその不安が楽になるようにしましょう」

「不安?」

「そうです。先輩はデートのことはほぼ決まっているらしいので、気がかりなのは先輩が不安を抱いてることだと私は思いました」

「確かに、ぐちゃぐちゃと考え事がまとまらなかったけれど、これも、裏には不安が隠れていたのかも。お願いします」

「はい!それじゃ行きますよ」

 そこから、彼女は魔法みたいなことを始めた。何か唱え、何かの粉をふるう、誰でもまねできそうなことだったけど、これは彼女しかできないことなんだろう。そう思わせるほどの何かを私は感じた。

「はい、終わりました」

「ありがとう、料金とかあるの?」

「いえ、私まだ仮の状態なのでお金は取れないんです」

「じゃあ、今度クッキーやいてくるよ」

「いえ、お礼なんて」

「借りたままは嫌だから、もらってほしい」

 魔法使いは優しい子だった。話しているときも笑わず真剣に聞いてくれたし、それでもお礼は必要ないと言った。友達にいいことがあると言われて来てみたら、ほんとにいいことが起きた。これなら、精一杯がんばれそうな気がする。

 もう一度、彼女にお礼を言って、私は教室を出てく。もう、頭をぐちゃぐちゃにするものはなかった。これは気のせいかもしれない。でも、これはきっと魔法をかけてもらったからなのだろう。