「お邪魔しますーっと」

「どうぞ、汚い部屋ですけど」

「わー、ほんとだね」

 夏未先輩の我が家の訪問が決まった日から一週間後その計画は実行された。夏未先輩は玄関に入るなり、やっぱり来てよかったかのように頷いている。愕然と立ち止まっている訳ではないので、散らかり具合は先輩の想像の範囲ないだったのだろうか。

 先輩にスリッパを渡して、部屋に案内する。案内すると言っても一人暮らし用の賃貸なので玄関からすぐに部屋になるのだが。

「一応、ごみは捨ててるんだね」

「それはまあ」

 部屋に入っての第一声だった。先輩はごみのあふれる部屋を想像していたのだろうか。

「でも、この部屋は物が散らかりすぎてるね」

 部屋には干して取り込んだままただ積まれているだけの衣類、別のところには読んでそのまま放置されている参考書類、真ん中に置いてある座卓にはパソコンに多くの場所を取っていた。この状況の部屋を見た人はみんな同じことを先輩と同じことを言うだろう。

「うん、まずあの洗濯物からたたもうか」

 プランの決まった先輩がまず手を付けようとしたのは積まれた衣類たちだった。

「え、洗濯物は僕がやりますから、他のことから手を付けません?」

 さすがに、高校生で青春真っただ中の僕には、歳の近い異性に下着を見られるのは多少なりの羞恥を覚えた。

「え、まさかパンツ見られるの恥ずかしいの?」

「ええ、まあ」

「私は気にしないよ、毎日弟たちの見てるし」

 先輩が僕の言葉で止まるわけがなく、一緒にたたみ始めた。せめてもの情けで僕のパンツは自分でたたませてくれたけど。僕が一枚たたむ間に先輩は2枚3枚とたたんでいく。素早い先輩のおかげで衣類の片づけはすぐに終わった。ちなみに、先輩のしまったタンスにはまだ十分のゆとりが残っていが、僕がやると絶対に入りきらなかった。

「次はどうします?」

「うーん、床に散らばっている本をかたずけたいところだけど、そこは本人がやった方がいいと思う。私だと順番とかばらばらになっちゃいそうだし」

「分かりました」

「私は、開いた床に掃除機かけてるよ。掃除機かりていい?」

「はい、そこの棚の奥に入ってます」

 指をさして場所を伝える。

 そして、僕は本の片づけ、先輩は掃除機と今度は二手に分かれた。まず床にあった、本をかき集める。そこから、今度は内容ごとに分けていく。雑誌や部活の為に買った参考書、普通に高校の授業で使う教科書と内容も種類もごちゃ混ぜになっている。いつも机で勉強して、そのまま放置していた僕が原因なのだけども。

「なかなかにきれいになってきたね」

 掃除機をかけるのを終わらせた先輩が僕のところに来る。僕は今、種類ごとに分けた本んを本棚にしまっているところだ。本は絶対に多くなると考えていため、そこそこ大きな本棚がうちにはある。なので、あれだけ散らばっていた本もすべて本棚に収めることができた。

「先輩は掃除機かけるの終わったんですか?」

「うん、終わったよ。ついでに台所も軽く掃除してきた」

「早いですね」

 僕も本の片づけが終わったところで、二人で最後で最大の敵に目を向ける。

「このパソコンって、ここじゃないと駄目なやつ?」

「いや、そんなことないですけど」

「じゃあ、私はどこかに動かしたほうがいいと思う」

「そうしたいのはやまやまなんですが」

「あ、置くところが他にない?」

「えっと、置くところはそこの壁にかかってます」

 壁に立てかけられた置くところに目を向ける。つられて先輩も同じところに目を向けた。

「机を買ったのはいいんですけど、まだ、組み立ててなくて」

「あれ、机だったんだ」

「はい」

「組み立てちゃおっか」

 引っ越すときに購入した以来、めんどくさくて組み立てていなかった机も、今日組み立てることになった。

 一旦、パソコンと座卓を部屋の隅に避難させて、包装紙をはがしていく。はがし終えるとダークブラウンの天板と脚が出てきた。

「これ、ドライバーが必要だけど、ある?」

「僕を何部の人間と思ってるんですか?精密ドライバーまでそろってますよ」

「おお、さすがロボ研」

 そんな、茶番を挟みつつ机を組み立てていく。机の組み立ては、もっと複雑なものを組み立てている僕にとっては、朝飯前と言ったところだ。

「先輩この机どこに置いたらいいと思います?」

僕は出来上がったデスク型の机を見ながら先輩に尋ねる

「うーん、どこかなあ」

 腕で机の大きさをはかり、部屋のいろんな床に当てていく。窓の横のちょっとした空きスペースを見つけた。机と場所を繰り返し見て頷く、どうやらいい納得のいくところが見つかったらしい。

「佐藤くん、ここならきれいに収まると思う、日も直接当たらないからパソコンを置くにはぴったり!」

 先輩の選んでくれた場所に机を動かす。机は二人で運んだけど、パソコンは落とすと怖いと先輩が言ったので、僕一人で動かした。パソコンを机にのせたところで、コード類の配線をしていく、コンセントもちょうど近くにあったので配線はそんなに困らなかった。

 先輩はその間に、机の包装に使われていた段ボールをかたずけ、座卓の上を拭いていた。

「こんなもんかな」

 二人ともやることを終えて、部屋を見渡す。その部屋からは山積みになった衣類も散らかった本も自分のところに収まっていた。こんなにすっきりしているのはいつぶりだろう?もしかしたら、引っ越してきた日以来かもしれない。

 きれいになった部屋を見渡して、これからは使ったものはすぐに元に戻そうと心に決めた。

「もうこんな時間に、お腹すいたね」

 壁にかかった時計の針はてっぺんを過ぎていた、先輩が家に来てから3時間は経過している。

「そうですね、今日はありがとうございました」

「いえいえ、いつもうちに来てくれてるお礼です」

 お互いに頭を下げてみる。高校生には似合わない体勢だと思った。その時、何か思い立ったようで先輩が顔を急に上げた。

「そうだ!お腹すいたし、私がお昼をつくってあげる」

「ほんとですか」

「もちろん!お父さんの味までは届かないだろうけど」

「じゃあ、今すぐにでも、と言いたいところですが食材が何もないです」

 冷蔵庫の扉を開けて先輩に何も入っていない中を見せる。うちに何も食材がないところまでは先輩も予想できていなかったらしい。先輩は冷蔵庫の前でかがんで中を見渡し、冷蔵庫に何も入っていないことを確認すると、僕に言い放った。

「作るって言ったし、食材を買いにスーパーにいくよ!」