別れの季節が終わり、様々な人々が新たな出会いに向けて準備しているころ一人の女子が電車から降りてきた。少女は少し明るい黒髪を肩まで伸ばし、前髪をピンで止めている。    
 彼女は小学生のころに魔法使いの才能を見出され、この国では有名な魔法使いのもとで数年間修業をしていた。まだ、本物の魔法使いと認められたわけではないが、修業も一区切りついて地元に帰ってきた。彼女は体に見合わない大きなトランクを転がしながら駅の出口に向かっていた。

「いやー、やっぱり地元が一番ですね」

 町の中心街にある駅のホームから出た佐倉マオは大きなトランクを横に置いて大きく背伸びをした。長い時間電車に揺られていたために凝り固まった体がほぐれていく。
 
「確か、迎えに来ているって聞いていたのですが」
 
 周りをきょろきょろと見渡す。すると道の反対側で手を振っている人がいた。気付いた私も手を振り返すと私のところへ来てくれた。
 
「お待たせ、少し待たせちゃったか?」
「ううん、そんなことないよ。でもまさか君が来てくれるなんて思わなかったよ」
 
 私を迎えに来てくれたのは私の幼馴染である蒼井裕一だった。私が裕一に会うのは去年のお盆以来だが、この半年間でさらに身長は伸び、顔つきも大人に近づいていた。でも、いつもの笑顔はあの時から全く変わっていない。
 
「君はまた身長が伸びたね」

「そうかな」

「だって、君の顔を見てると首がいたいもん」

「そうなのか?じゃあ、しゃがもうか?」

「しゃがまなくていいよ。あれ、お父さんたちは?」
 
 裕一と話していて気が付かなかったが迎えに来ると言っていた、父と母の姿が見えなかった。
 
 「あー、それはな、まだマオのおかえり会の用意ができていないらしくって。手を離せないから代わりにって、俺が頼まれたんだよ」
 
「そうだったんだ、いつもごめんね」
 
「大丈夫から、気にすんなよ。ほら、それ貸して持つよ」
 
「ああ、ありがと」
 
 裕一にトランクを持ってもらい、私たちは家に向かった。
 
 「今年から、こっちの学校に今日って本当なのか?」
 
 家に向かって歩いていると、前を歩いている裕一が聞いてきた。

 「そうだよー、三年間いられるかはわからないけど、私も君と同じ高校に通うよ」

「そっか!一緒に学校に通うなんて小学校以来だな、高校ではよろしくな、マオ」

「こちらこそ」

 今日は天気予報の言っていたとおりの快晴で、冬寝ていた虫たちが一斉に目を覚ましそうなほど暖かかった。
 久しぶりに見た地元の空は透き抜けた青い色をしていた。