「私たち、カタミミ様に興味があるんですけど、少しお話を伺ってもいいですか?」紗枝は老人たちに話しかけた。
 普段よりも一オクターブ高い声。猫なで声に、遊羽はイラつき半分戸惑い半分だったが、老人たちは若い女性のふたり組だと気づくと、下世話な雰囲気で顔を見合わせてニヤリと笑った。

「ああ、いいよいいよ。こっち座りな」と、老人はテーブルの酒を片付けながら、紗枝に席を勧めた。遊羽は慌てて紗枝の袖をひっぱる。
「ちょ、ちょっと紗枝、そんなぶしつけな――」
「サエだって!?」

 紗枝の名前を口にした途端、下世話な感じが一変して緊張が走り、老人たちは顔を見合わせた。

「あーーっ!」紗枝はワザとらしく声を張り上げて、遊羽と腕を絡ませた。「私たちぃー、幼馴染みなんですよぉー。隣の県から来たんです。ね?」

 紗枝は身に覚えのない嘘を吐き、目線だけで同意を求めた。鬼気迫る視線に、思わず遊羽は首を縦に振った。

「え、ええ……、そうなんです」笑顔を取り繕った遊羽は、自分の頬が引き攣るのを感じていた。
「わざわざ、こんな小さな祭りに来られたのか?」いぶかし気にきく老人。
「歴史とか……、こういうお祭りとか好きでして……」
 しどろもどろに応える遊羽。
 数秒間の重い沈黙。疑うような視線を向けられていたが、隣の太った中年男が口を開いた。
「歴女というやつですよ」老人は歴女という単語を知らないようだった。中年男が説明しているうちに、謎の緊張感は霧散していった。
 その隙に、紗枝は目敏くお猪口が空になっているのを見つけ「お酌しますよ、どうぞどうぞ」と言いながら、徳利を手に取った。
 若い女性にお酌されて、気を良くした老人たちは、テーブルの寿司を勧めてきた。
 結局、そのままうやむやにになり、清々しいほどにあざとい紗枝と共に宴会の席につくことになった。

 老人たちは赤ずきんをかぶっていない。紗枝はかぶったままだったが、会食時にかぶっていては失礼になるのでは、と遊羽は赤ずきんを脱いで膝の上においた。鈴の音が耳から離れると少し寂しい。短い時間だったけどずいぶん馴染んでいたんだな、と遊羽は思った。