――しゃん、しゃん。

 歩くリズムで鳴る鈴が心地よい。鈴のおかげか、女の囁き声は聞こえなくなっていた。ちょっとした気恥ずかしさと高揚感があって、祭りが特別な場所に感じる。もう少しだけお祭りを楽しんでもいいかな、と遊羽は思った。

「マズい……」遊羽はつまようじのソースを舐めた。
「たこ焼きが?」
「違う違う。羞恥心が無くなってきちゃったかも、って意味。赤ずきんをかぶってないと、損した気分になっちゃう」紗枝の視線からたこ焼きを守りながら遊羽はいった。「ちなみにたこ焼きは美味しいよ」

「そだね、むしろこういう場だと、恥ずかしがっている方が恥ずかしいっていうかさ。割り切った方が楽しいよね。だけど、最近は赤ずきんをかぶってくれる人が少ないから、赤ずきんをかぶると特典があるようになっていますっ!」

 なるほど。さっきの屋台で『可愛い赤ずきんにはおまけだよ』と言われたのはそういうことだったのか。

「そうじゃなくて!」たこ焼きを食べ終えた遊羽は我に返った。
「私のクラスメート見なかった? 五人くらいのグループだと思うけど」
「うーん、見たような見てないような……」

 紗枝は煮え切らないこたえをかえし、話を逸らした。
「それより、次はアレ食べない?」
「カッププリン? 珍しいね」遊羽はいった。
「うん。ちなみにあたしの好物でもある。ぷるぷるしてて、とろとろしてて、盥一杯分でも食べれるわ」

「……ということで私たちは赤ずきんをかぶっている」
「うん、そうだね」
「だから、オマケ分だけ貰えないかなぁ」
「それは駄目でしょ……」
「ちなみに、子供たちは赤ずきんをかぶっているだけで、タダでジュースとお菓子がもらえる」
「やめてよね?」

 遊羽は釘を刺した。おまけだけもらいに行くのは止めてほしい。小学生じゃあるまいし。

「んー、じゃあ、社務所のプリンを食べよう。一個あげるよ」
「それ、紗枝の?」
「あたしが食べる予定のやつ」
「………………」たぶん勝手に食べたら怒られるやつだろう。

 遊羽が呆れてため息をついていると、紗枝はニンマリと笑った。
「ふぅん。思ったより大丈夫そうで安心した」
「何が?」遊羽は分からず問い返した。
「お腹の空き具合。さーて、次は何食べようかな。なんだかお寿司が食べたくなってきたなぁ」紗枝は先立って神社の奥へと歩き出した。

 食べる気満々のくせに紗枝は財布を持っていなかった。さっきのたこ焼きは遊羽が赤ずきんのお礼にとご馳走してあげたものだった。
 これ以上、この無銭飲食娘とかかわるべきではない。そう思ったが、放っておくのもためらわれる。クラスメートが見つかるまでだ、それまでは付き合おう。そう決めて、遊羽は着物の背中を追った。