スマホの電波は一時的に復旧したものの、また圏外になっていた。
時刻は正午に近い。すでに待ち合わせを二時間近く遅刻している。クラスメートが待っているとは思えない。それでも、確認しないで帰るわけにもいかなかった。
遊羽は重い足取りで参道を歩いていた。待たれていても嫌だけど、待たれていなくても嫌だった。
鳥居の下にたどり着き、周囲をおそるおそる見回すと、女子高生らしきグループは見当たらない。少なくとも全員で待っていることはないようだ。
待ち合わせらしき女は五人いた。そのうち、遊羽と同世代とおぼしき少女は三人だ。二人は赤ずきんをかぶっていない。顔を見るとクラスメートではない。
残るひとりは、赤ずきんで顔が隠れた少女だった。
遊羽はまず、道の反対側に渡り、少女から充分に距離をとった。何気ないフリをしながら歩きながら横目で盗み見る。
赤ずきんの隙間から口元が見えた。柔らかい微笑みをたたえている。見覚えがある気がする。さらに回り込もうとした。
そのとき――。
「……ねぇ」
唐突に耳元で声をかけられた。女の声だ。明らかに自分に話しかけている。遊羽は固まった。
「……ねぇってば!」
「ひゃあぁぁぁぁあああっ!」再びかけられた声に、遊羽は悲鳴を上げた。
「うわぁああっ!」
遊羽の叫びに反応したように、数人の叫び声が背後から聞こえた。
聞き覚えのある声に驚いて振り返ると、少女たちのグループが目を丸くしていた。自分と同年代。この春からの同じ高校に通うことになったクラスメートたち。
気を取り直した少女たちは口々に言う。
「いきなり、驚くじゃない」
「なーに、帰ろうとしてんだー」
「ちょっと目を離した隙にいなくなるんだから」
遊羽は話の流れが理解できず呆然としていた。
言葉の端々から、さっきまで一緒にいた雰囲気だと、かろうじてわかった。
「えーっと……、私たち、さっきまで一緒に居たんだっけ?」遊羽はいった。
「何いってんの。朝から一緒にいたでしょ? どうしちゃったの?」
「あ、ううん。ごめん、私の勘違い」
「それにしても、この祭りの赤ずきんって……、子供っぽいっていうか、ちょっとダサいよね。遊羽は気に入ってるみたいだけど」
「あ……、ほら、カタミミ様のためだからね」遊羽はいった。
「カタミミ様? 何それー?」
クラスメートに笑われた。彼女たちは赤ずきんをかぶっていない。ふと、遊羽はそのことをひどく寂しく感じた。
遊羽はクラスメートを一通り眺めまわしてからいった。
「このお祭りってね――」
