きぃ……、きぃ……、きぃ……。

 さらに人が集まり、社殿の周囲は人だかりになっていた。その間にも、社殿から軋む音が聞こえ続けている。
 しかし、誰もがその音を気にしてる様子はない。音が聞こえるのが当たり前で無視しているのか、それとも本当に聞こえてないのか判別つかない。

 きぃ……、きぃ……、きぃ……、きぃ……。

 遊羽は社殿から聞こえる音について、紗枝にきいた。

「動物が入り込んだ可能性とかないかな、それでぎしぎし音がするの。女の子の声に聞こえたのは動物の鳴き声で……。ほら、猫の鳴き声とかって、赤ちゃんの泣き声に聞こえることもあるじゃない? ああいう感じで」
「なるほどねぇ、でも、中に入り込んだ可能性はないよ。社殿には内側から札がびっしりと貼ってあって、動物が入るような隙間はないんだ。もし動物が入り込んだら、札がやぶけるからわかるでしょ?」
「うーん、そっかー……。じゃあ、縁の下とか屋根の上に入り込んだ猫の声と勘違いしたとかは?」
「それはありそうだけど、実際はないね。いくら中から音がしたといっても、社殿みたいに簡単に開けられない建物だったら、まず先に建物の下とか周りをみるでしょ。本当に中から聞こえたのかな? ってな具合に。『中に閉じこめられてる』なんて確定した発言をするなら、普通はかなり調べていた後だからね。騒いでから実は違いましたなんて恥ずかしいじゃない?」
「そっか……、そうかもね……」

 紗枝の言うことに筋が通ってるように思える。が、自分だったら、まずは人に聞いてみる気がする。『中から音がしない?』って、でも他の人に聞こえていなかったと思うと……。

「まぁ……、そういう推察を差し引いても、中に誰もいないとする一番の理由は『今まで一度も中に誰かが入っていたことがなかった』からだけどね」
「それって……、だけど……」

 つまり、過去にも何度か音がして、そのときに社殿を開けてみたけど、中に誰もいなかった、ということだ。遊羽は音の原因について説明がつくものであってほしかった。

「どうしても、科学的に説明のつく現象にしたいの? 科学が万能であって、怪奇現象を信じたくない?」紗枝はいった。
「いや……、そういうわけじゃ……。でも音は物理現象だよ。空気の振動をさせるモノがあるんだよ」
「カタミミ様も昔の話も、曖昧なものはいや? 白黒つけたい?」
「昔の話なんて、ホントかどうかも分からないし……」
「私としては、カタミミ様もお祭りも好きになってくれたら嬉しいんだけどね」

 渋る遊羽に、紗枝は明るい声で言った。

「カタミミ様の謂れはいろいろあって、人によって違ってるかもしれない。けれど、そんなのは些細なこと。これからもずっと、カタミミ様もお祭りも続いていてくれればなぁ、って私は思ってるよ」