リアンは揺れる列車の中から、移り行く景色を眺める。
 しかし、遠くを見るような目をして見ているリアンの頭には、視界に広がる美しい自然とは別に、ジャンと暮らした楽しかった懐かしの酒場が浮かんでいる。
 リアンが様々な思いを抱き、車窓の景色を眺めながら列車に揺られていると、懐かしの駅へと到着した。この駅のホームに立つのは、マドルスと旅立った日以来だ。
 リアンは懐かしむ気持ちで、夕焼けに染まるホームからの景色を眺めた。
 改札を出たリアンは、真っ先にジャンの酒場がある商店街へと向かう。しかし商店街を歩いていても、見知った顔に誰一人出会わなかった。
 それもそのはずだ。
 商店街に入ってからは、見知った人は疎か、人の姿さえ見ていないのだ。
 商店街は道を挟むようにして店が連なっている。しかしその多くが、店のシャッターが閉められている。まだ店を閉めるには、時間は早過ぎる。きっと元から営業していないのだろう。
 リアンが最後に見たこの商店街の風景より、明らかに寂れてしまっているようだ。
 リアンの足がぴたりと止まった。
 目の前に佇む古びた酒場の看板を見上げ、リアンは物思いに耽る。そしてリアンは、酒場のドアの前に歩み寄った。
 木製のドアは、昔よりも古びて見える。ただ握り、引くだけ。そんな簡単な動作で開くドアを、リアンは躊躇したまま触れられずにいる。
 マドルスの家で暮らす間、ジャンに出した手紙は、一度も返事がなかった。

ジャンの最後の言葉が、頭を過ぎる。