マドルスの葬儀は、親族だけでしめやかに行われた。
 リアンは棺の中で眠るマドルスを見て、涙が止まらなかった。
 リアンに見守られながら死んでいったマドルスは、最後までジャンの死を言えないままこの世を去った。
 最後の最後まで、リアンに嫌われる事を恐れたのだ。

『リアン、生まれてきてくれてありがとう』

 この言葉を最後に、マドルスは息をひきとった。
 葬儀が終わった。
 葬儀を終えた次の日。
 荷物を纏め終えたリアンの元に、スタルス家の遣いの者が訪れた。そしてリアンは、その者と共に、スタルス家へと向かった。
 スタルス家に着いたリアンを出迎える者は、誰もいなかった。しかしそれは、意図的にやっているのではない。屋敷が広すぎる為、ジェニファもジュリエも、リアンが来た事に気付かなかったのだ。

 
「今日からこちらが、リアン様のお部屋になります」

 執事は荷物を部屋に置きそう言うと、部屋から直ぐに出て行った。
 一人残されたリアンは、部屋の中を見回す。
 広さはマドルスの家にいた時の部屋と比べても、大差ない程、一人には十分過ぎる程広い。
 部屋の中には、机やソファー、ベッドなどはあったが、ピアノはなかった。
 リアンは荷物を床に置き、いかにもフカフカなベッドに腰掛けた。そしてマドルスの形見となった、首に掛けている銀色のネックレスを手に取り、何かを思うように眺めた。