先程言われた事を、リアンは忘れていたのだ。 リアンは舌をペロッと出して、側に立つ黒い服の男に視線を送った。黒い服の男は、リアンのその仕草を見て、微笑んだ。

「この二人は、我々の世話をしてくれる。それが彼等の仕事なんだ。何か用心がある時には、彼等に言うんだぞ…礼なんて言わなくていいんだからな」

 マドルスはそう言うと、側にいる執事に合図を送った。
 それから暫くすると、料理が運ばれてきた。

「…これだけ?」

 リアンは心の中でそう呟いた。
 目の前には、具の欠片もない、紺色に透き通るスープの入った器だけが置かれた。他の料理が来る気配がないのだ。
 リアンはテーブルの上にあったパンを食べつつ、スプーンで掬ったスープを少しずつ飲んだ。
 リアンのスープを啜る音を聞き、マドルスは怪訝な表情を浮かべている。

「…リアン、スープは音を立てずにこうやって飲むんだぞ」

 マドルスはスプーンでスープを掬い、何の音も立てずに、口の中へと入れた。
 リアンは見よう見まねで、マドルスと同じような動作をし、音を立てないように注意しながら、スープを飲んだ。

「…さっきの食べ方の方が、美味しかったよ」

「…ははは、そうか…でもな、テーブルマナーというものがあってだな……お前は知らないらしいから、今日はじいちゃんの真似をして食べてみろ」

「…うん」

 料理はスープだけではなかった。
 スープを飲み終わる事、次の料理が運ばれてきたのだ。