「うん、その日にだ!」

 そう言った後、ジャンは豪快に笑った。

 リアンは今は亡き、両親の顔を思い浮かべた。
 母親のソフィアの顔は、写真でしか知らない。リアンを産んだ数日後に、病気で死んでしまったのだ。
 もとから体の弱かったソフィアは、無理をしてリアンを産んだ。だが誰も、リアンにはその話しをしていない。
 お喋りなジャンでさえも、リアンを産んでしまったせいで、ソフィアが死んだなんて言えるはずがなかった。

「それからの話しは、フェルドから聞いてるな」

 ジャンはステーキを切りながら尋ねた。

「…うん」

 もう二度と会う事が出来ない両親を思い出し、リアンは少し悲しい顔をした。その様子に気付いたジャンは、話題を変え、リアンを笑わせた。リアンは顎が外れるんじゃないかという程、大笑いしている。
 時間が経ち、楽しかった今夜の宴も終わりを迎えた。
 台所でジャンとお喋りしながら食器を洗い終えたリアンは、風呂に入った。そして程良く熱い浴槽に浸かり、幼き頃に過ごしたフェルドの事を思い出した。
 フェルドはリアンがまだ幼い頃に亡くなっている。数多くの思い出は記憶にはない。しかし、ジャンからはよく伝え聞いている。
 両親との思い出に浸っていると、長風呂となってしまった。
 風呂からでたリアンは、ジャンとおやすみの挨拶を交わした。そして寝室へと向かい、ベッドに横になった。しかし眠るにはまだ早い。
 リアンは、部屋に飾られているフェルドの描いた絵を眺めた。
 キャンバスには、猫と戯れる、幼き日のリアンの姿が描かれている。何百回、何千回と毎日見続けている絵だが、見る度に幸せだったあの日々を思い出している。
 夢中で絵を見続けていたリアンは、知らぬ内に眠りの世界へと誘われていた。そして夢の中で両親と会い、いっぱい語り合った。