「…この通帳がなくなったら、ご主人に何か言われるのではないですか?」

 ジョルジョバはその一点に、大きな不安を感じた。

「いえ、大丈夫です。最近、お金の管理は私が任されるようになりましたし…それにこれはリアンのお金なんです…もっと早く渡せていれば」

 ジェニファはそう言うと、本心から申し訳なさそうな顔をした。
 この通帳が無くなれば、スタルスが気付くかもしれない。しかしこの通帳を受け取れば、ジェニファの肩の荷も少しは降りるだろう。そして何よりも、受け取るかどうかはリアンが決める事。

「…分かりました。リアンに渡しておきます」

 ジョルジョバはそう言うと、自分の足下に置いている鞄に、通帳を仕舞った。
 少し時間が経った。
 そろそろこの家を出なければ、帰りの列車には間に合わないかもしれない。

「…では、わたしはこれで失礼します」

 話も終え、スーツの内ポケットの懐中時計で時刻を確認したジョルジョバは立ち上がった。

「…リアンの事、よろしくお願いします」

 最後までジェニファは、リアンの事を口にしている。暮らした期間は短いが、本当の子供のように、リアンの事を愛しているのだろう。
 ジョルジョバはそれを感じ取り、笑顔で答え、スタルス家を後にした。