活動内容が決まったため職員室に向かう。もちろんの如く小倉はついてこなかったが、何故か紗音さんはついてきた。部長だし行かなきゃいけない的な使命感に駆られているのかもしれない。誰かさんの思いつきで始まったことだしそんな気負わなくてもいいと思うが。そしてさっきから隣に並んで廊下を歩いているわけだが、特に話しかけてくることもなく気まずい空気の中職員室についた。
 坂本先生のデスクまで二人で行くと
「はい、これ書いといて」
とさっき名前を書いた部活設立申請書を渡された。そこに部活名や活動内容について記していく。そしてもう一つ。
「あの紗音さん。もし嫌なら部長変わろっか?」
するとちょっと困った顔をして
「いえ、別に別にお気遣いなく」
と素っ気なく返されてしまった。でも嫌なものは嫌だろうと思い部員のところに記された名前を消し、部長の欄に自分の名前を書きこんで鈴音さんに手渡す。
しかし
「あのほんとにお気遣いなくっ…」
と紙を返されてしまう。こうなってしまっては仕方ない。
「実はさ俺高校入ったら絶対部長やろうと思っててさ、その夢叶えさせてくれよ」
と紙を手渡すと
「すみません、ありがとうごさいます」
と小さく言い名前を書いてくれた。
それを先生の元に持っていくと新しく活動内容の所に書かれた。
「何を書いたんですか…?」
と聞くとひどい返事が返ってきた。
「いや、私の仕事を手伝っって貰おうと思って」
「え、いや何でですか」
「何だだってお前ら生徒指導室占領してるんし多少は手伝って貰わないと」
「いやでも…」
いやですと続けようとした所でとんでもないことを言われた。
「じゃあ顧問降りようかな。部室も無くなるし…、えっとそしたら退学になるのかな」
「いや〜、これからせんせいの仕事手伝えるのが楽しみですね」
「おっ、だろ〜分かってるじゃない。じゃあ今日はもう帰っていいぞ。あと普段の部活は六時までな。さぼんなよ」
と先生は紙を持ってどっかに行ってしまった。
 職員室室を出て今日水筒を持ってくるのを忘れたことを思い出す。まだ4月だというのにもう暑くて喉が渇いてしまった。確か校内に自動販売機があったはずだ。ついてくるとは思わないけど一応部室に帰るように催促する。
「あの、俺ちょっと喉渇いたから何か買ってくるから先戻ってて」
すると少し慌てながら
「私も喉渇いていたので買いに行きます」
とついてきた。そんなはずないだろうに。
 そして自動販売機までやってきた。崖の上に立つこの学校では見晴らしのいい場所がいくつかある。そして自動販売機の前がそのうちの一つらしい。フェンス越しの遠くに海が見える。今日は天気もいいし遠くまで見える。
「何か買ってくるから適当に待ってて」
というと彼女はフェンスの前にあるベンチの方に向かった。やはり何か買うつもりはないらしい。適当に水を買い、そしてもう一つリンゴジュースを買って、ベンチの方へいく。
「紗音さん?」
と呼びかけると振り向いたので、リンゴジュースを差し出す。すると驚いたのか急に立ち上がり
「だ、大丈夫です」
と慌てながら手を体の前で振っている。
「ああ、リンゴ嫌いだった?」
「いえ、そうじゃなくて好きですけど」
なら、ともう一度ジュースを差し出す。
「頂くのは申し訳ないです」
とジュースを手ごと押し返されてしまう。
「いやでもこのまま飲まずに捨てるのも勿体無いし、飲んでよ」
と三度差し出す。するとそれならと受け取ってくれた。そのまま並んでベンチに座る。そして気になってきたことを聞く。
「なんでついてきたの?職員室もというか自販機は付いてこなくてもよかったでしょ」
それは…と少しの静寂の後、
「いえなんでもないです」
と笑ってごまかされてしまった。
「別に言いたくないならそれでいいけど、これじゃあ俺を追っかけたいだけみたいになっちゃうよね」
すると少し声を張って
「いえ、別にそういうわけじゃありませんから」
と必死に否定してくれた。それもそれでどうかと思うけど。
「うんまぁ知ってるよ」
とどことなく言うと、すみませんと小さな呟きが聞こえた。
「そんなに気にしなくてもいいのに別に元々意地悪なこと言ったのは俺だし」
「いえいえ、それでもです」
「じゃあ教えてよ。何でついてきたの?」
「ジュースも頂きましたし、話さないのはご無礼かもしれませんね」
すると彼女はふぅと息を吐き、続きを話し始める。
「実は私、女の人が怖くて、近くにいるだけでまいっちゃいそうで、話すのなんて全然出来なくて」
「それは女性恐怖症ってこと?」
と聞くと頷かれた。
「だから部室に小倉さんと2人きりになるのが無理かなって思って、それで」
なるほどそれなら合点がいく。
「でも迷惑でしたよね。ついてこられて」
とクスリと笑っている。
なるほどこれは他にも何かあそうだな。と思いながら遠くを見る。すると水平線に近い太陽が視界を赤く染める。
「あのそれより何故私たちはいろんな人に見られているのでしょうか」
と不思議そうに聞いてくる。知らなかったのかと思いながら説明する。
 このベンチは水平線のベンチと呼ばれるベンチで夕陽に照らされながら付き合ったカップルはその愛を永遠にするという逸話から、この学校では割と有名な場所である。
 そして男女2人が夕暮れ時に水平線のベンチに座っているとなれば誰でも興味が湧いて覗いてみたくもなるものである。
 説明を聞いた彼女はぽっと頬を赤く染めげ恥ずかしそうに俯く。
「ごめんね知ってるのかと思ってたけど、まさか知らなかったとは…。俺なんかとそういう噂が立ったら嫌だよね。」
すると彼女は顔をこちらに向けて
「そんなことないです!」
と反論してくれた。直後に更に顔を真っ赤に染め上げていたが。
「もう部室に帰ろうか」
と呼びかけると
「今日のことは誰にも話さないでくださいね」
と言われた。ちなみにそれで歓声が湧いて彼女の顔がもっと赤くなった。そして照れ隠しなのかもよく分からないが
「小春と呼んでください」
とお願いされた。なので俺も
「うん、小春じゃあ俺のことは和弥って呼んでくれ」
「はい和弥君」
と満面の笑みを向けられてしまった。