それから、共に眠るようになって、茜の昼寝の時間が減った。
夜にちゃんと眠れるようになったからだろうが、日課の時間が減ったのは少し不満でもあった。
よく睡眠を取れているからなのか、茜の元気の良さはパワーアップしたようにも思う。
その度に神殿内には眷属の怒声と、茜の謝罪の言葉が響くのだが、そんな賑やかな日々が当たり前のようになっていく。
「ねえねえ、蛇神様は何才なの?」
「知らぬ」
「えぇー」
「そんなもの一々数えておらぬからな」
「大体でいいから」
「……数千から数万か?いや、もっとか……」
「ええー、蛇神様ってお爺ちゃんだったの!?」
「おじいっ……」
じじい呼ばわりされ、ちょっとショックを受けた蛇神。
「爺などではない」
「うーん、確かに見た目は若いもんね。でも、それだけの年齢なら奥さんとかいないの?」
「我の妻になりたいと望むような酔狂な者はおらぬ。一体醜い我の隣に立ちたいと望む者がどこにおると思う」
誰もが皆、蛇神を恐れて離れていくのだ。
「蛇神様はイケメンだよー。まあ、ちょっと顔に変なのあるけど」
「変なので済ますのはお前ぐらいのものだ」
目が悪いのかと何度となく思った蛇神だったが、茜の視力はいたって良好である。
「なら、蛇神様はずっと独身?」
「ああ」
「好きな人もいないの?」
「いるわけがなかろう」
すると、茜が目をキラキラさせる。
だいたいこういう目をする時は変なことを言い出すことを蛇神は経験で知っている。
今度は何を言い出すのか。
「じゃあじゃあ、私が蛇神様のお嫁さんになる!」
「……は?」
「蛇神様に奥さんいないんでしょう。だから、私が立候補ー!!」
「立候補、ではない。我は幼女に興味はない」
「その内成長するもん!ぼん、きゅ、ぼんの魅惑のお姉さんになるんだから!……多分」
「そうか、頑張れ」
「反応薄い~!そして棒読み」
「なってから言え」
「なるもん!なって、絶対に蛇神様のお嫁さんになってみせるもん。メロメロにするんだから!」
ぷりぷり怒る茜の姿に、蛇神は密かに口角を上げた。
少し前には思いもしなかった、穏やかな日常。
こんな言葉の言い合いも、蛇神には新鮮だった。
それまで白と黒だった世界が、茜によって鮮やかに彩られる。
部屋の外に見える空の色ですら違って見えるのだから、変なものだ。
感情を忘れたはずの自分に感情を与えるものが現れるとは。
それから十数年後。
宣言通り、蛇神の隣には美しく成長し、神の花嫁となった茜の姿があった。
そして、共に笑う蛇神の笑顔があった。



