しかし、茜のことで気になっていることがあった。

 茜はよく昼寝をする。
 わざわざ蛇神のところに枕と布団を持ってきて、蛇神の手を握って眠るのだ。

 最初は困惑したが、繋がれるその小さな手の温もりは嫌ではなかった。
 だから、そっとしておけば、いつしかそれが日課となっていた。

 茜の寝顔を見ながら時を過ごすのは思いの外蛇神の好きな時間の一つとなった。

 穏やかな時間。
 それを穏やかな気持ちで過ごす。

 なんと贅沢だろうか。
 昔、最高神の神殿では得られなかった時間。

 茜が与えてくれた時間。
 あの時見捨てずに良かったと心から思った。

 けれど、その茜の寝顔を見ながら、こんなに寝て夜は寝られているのだろうかと疑問が浮かぶ。

 その疑問は蛇神だけではなかったのだろう。

 ある日、茜がいない時を見計らって眷属が蛇神の下へやって来た。

 眷属によるとどうやら、茜は夜眠れていないらしい。
 寝ていても、よく魘されているのだそうだ。


 蛇神は眉間に皺を寄せた。


 その日の夜遅く、そっと茜の部屋の戸を開けると、布団の上で蹲っている茜がいた。


「眠れないのか?」


 声を掛けると、びくりと体を震わせ、勢い良く顔を上げる茜。


「蛇神様……」


 ゆっくりと近付き膝をつく。


「昼寝のし過ぎか?」


 茜は迷子の子供のような不安げな顔をしていた。


「怖いの……。暗いのが……。また捨てられちゃうんじゃないかって」


 茜は縋るように蛇神の服を掴んだ。


「蛇神様は私を捨てないよね。ずっとここにいていい?出て行けなんて言わないで……」


 いつも明るい茜の心の闇を垣間見た気がした。

 蛇神はそっと茜を抱き寄せる。
 ガリガリだったが、眷属達の努力によりほどよく肉が付き、子供らしい柔らかさを取り戻した、その小さな体を包む。


「好きなだけここにいればいい」

「ほんと?」

「ああ。お前がいる時間は悪くないからな」


 するとようやく笑顔を見せた茜に、蛇神もほっとする。


「じゃあ、ずっとここにいる」


 えへへっと笑う茜を抱き上げると、目を丸くした。


「蛇神様?」

「一人で寝るのが怖いのだろう?ならば一緒に寝れば良い」


 そう言って自室に戻り、隣に寝かせる。


「これからはここで寝ろ」

「良いの?」

「ああ」

「やっぱり蛇神様は優しいね!」


 そんなことを言うのは茜だけだといういうのに。

 けれど、その茜の言葉だけで十分心は満たされた。