茜が共に暮らすようになり、それまでお通夜のように静かだった神殿内は、嘘のように騒がしくなった。


「茜様!」

「ごめんなさーい!!」


 バタバタと足音を立てて慌ただしく廊下をかけっこする茜と眷属。
 またかと、蛇神は頭痛を覚えた。


「あっ、蛇神様!助けてー」


 蛇神を見つけた茜が、天の助けとばかりに、一目散に駆け寄ってきて、蛇神の後ろに隠れる。


「主様、茜様をお渡し下さい!」

「……今度は何があった」


 呆れと共に吐き出される問い。


「茜様が火の神より頂いた神器の枝を燃やしてしまわれたのです!」

「茜……」


 眷属の怒りようも納得だ。


「だって、ただの枝だと思ったから、乾燥してたし焚き火するのに良いと思ったんだもん。蛇神様と焼き芋食べようと思って」

「神器で芋を焼こうとされたのか!?」

「茜」


 さすがにそれはないと、怒ろうとしたが……。


「ごめんなさい」


 しゅんとしている茜を見るとそれ以上怒るに怒れなくなる。


「茜も反省しているようだし、もう良かろう」

「甘い!甘いですぞ。主様は茜様に甘すぎます!」

「わーい。蛇神様優しーい。大好き!」


 眷属が不満を訴えるが、足に抱き付く茜を仕方がなさそうにしながらも、優しげな眼差しで見る。

 そんな主を目にした眷属も、最終的には折れてしまうのだ。
 茜が来てから、神殿内は日が差したように明るくなった。

 その光は蛇神の心をも明るく照らし、穏やかな表情をすることが増えた。

 二人はいつも一緒にいた。
 というよりは、茜が蛇神にべったりだった。

 食事は勿論、何をするにもちょこちょこと蛇神の後をついて回る。
 その姿はカルガモの親子のようと、眷属達から微笑ましく見られている。

 蛇神もそんな茜を邪険にするでもなく、足の遅い茜に合わせて、あえてゆっくりと歩いていた。

 そんなことにも気付かず、必死に付いてくる茜に、蛇神の心はぽっと灯がともったように温かくなるのだった。

 
 まだ五歳ということだったが、どういう育てられ方をしたのか、やけに大人っぽい言動をする茜に、蛇神はよほど辛い生活だったのだろうと胸を痛めた。

 あれだけ帰れと言っていたのに、今では茜が帰りたいと言わないか怯えていた。

 神である自分が怯える。
 とうの昔に忘れた感情が、色々と姿を変え戻ってくるのを感じる。


 大人っぽいとは言っても五歳の子供。
 自分でできないことも多いが、眷属がいても決して眷属任せにせず世話を焼く蛇神は、自分にもこんな面があったのかと、毎日が驚きであった。