少女を連れて戻ってきた蛇神に、眷属達は驚きのあまり固まった。
「部屋を用意しろ。食事もだ」
「ぎょ、御意……」
眷属達は初めはおろおろとしながらも、慌ただしく動き回った。
眷属によって風呂に入れられ、汚れが落ちた少女は用意された部屋で寝かされている。
思っていた通り綺麗な顔をしている少女の寝顔を見つめた。
年齢は分からないがかなり幼いことが分かる。
耳と尻尾が出ていること。
完全に変化しきれていないのが、まだ変身に慣れていない幼いあやかしの証拠だ。
ただただじっと少女の寝顔を見続ける蛇神を誰も咎める者はいない。
眷属は部屋から出したが、気になっているのが分かる。
しかし、そんな眷属達のことは黙殺し、少女が目覚めるのを今か今かと待っていた。
そんな自分に気付いて、自嘲する。
何をしているのかと。
どうせ騒ぎ、泣かれ、怯えられるだけだというのに。
自分のしていることが酷く滑稽に思えて、蛇神は部屋を出ようと立ち上がろうとした。
ちょうどその時、少女が目を覚ました。
「……ここ、どこ?」
見慣れぬ部屋に困惑した声が聞こえ、辺りをきょろきょろしだすと、蛇神と目が合った。
先程の朧気な視線とは違い、今度は確かに蛇神を見た。
泣くか、恐怖に叫ぶか。
「こんにちは」
少女から出てきたのは、泣き声でも叫び声でもなく、のんきな声の挨拶の言葉だった。
これには蛇神も面食らった。
確かに少女は蛇神の顔を見ている。
母神ですら忌み嫌う醜い己の顔を。
けれど、少女はそんなもの見えていないと言わんばかりの様子だ。
目が悪いのか?
そう思ってもう少し近付くと、確かに少女の目は蛇神を見ている。
ゆっくりと起き上がった少女はこてんと首を傾げる。
「あの……?」
返事をしない蛇神に困っているのだろう。
蛇神は少し緊張しているのを感じながら口を開いた。
「森で倒れていたのだ。覚えているか?」
「助けてくれたんですか?」
「ああ」
「ありがとうございます」
そう言って、少女はその場で土下座して感謝を伝える。
年に似合わないその行動を蛇神が止める。
「礼などいらぬ。こちらが勝手にしたことだ」
「えっ、すごく良い人。奴らと大違い」
何故だかキラキラとした目で見られ、蛇神は居心地が悪くなった。
「あんなところで何をしていた?もう少し助けるのが遅ければ死んでいたぞ」
そう問うと、少女は途端に顔を曇らせた。
「生け贄にされたんです……。何でも五十年に一度、水の神様に村の繁栄を願って供物を用意するらしくて。その供物に選ばれて、森に置き去りに……。生け贄は毎回無垢な五歳の女の子が選ばれるらしいんですけど、五歳の子供は村長のとこか私しかいなくて」
「なるほど」
時折置き去りにされる者がいたが、自分への供物のつもりだったのかと、蛇神はこの時初めて知った。
「愚かな」
そんな供物を用意しようがしまいが、蛇神が他者……ましてや、小さな村一つのことに気を使うことなどないというのに。
これまでの子達はただの無駄死にであった。