「私はいつまでもお待ちしておりますよ。一年や二年なんて、私にとってはあっという間です」
言って、聖母のような笑みを浮かべる。
初音は涙腺が緩むのを感じた。可愛らしい見た目をしているけれども、やはりコンは海千山千の狐。自分より何倍も大人なのだと痛感した。今まで姉気取りで彼女に接してきた自分が、急に恥ずかしくなってきた。と同時に、もっと彼女に頼って、甘えてもいいのだと思うと随分と気が楽になった。
「ありがとう。私、絶対また来るから」
注意していたのに、語尾が裏返ってしまった。
「泣かないでください。初音さんに涙は似合いませんよ」
こんな恥ずかしいセリフを億面も無く発することが出来るのも、彼女の魅力の一つである。
「今日は是非初音さんにお見せしたいものがあるのです」
コンはすく、と立ち上がり、初音の手を引いて歩きだした。
けもの道を延々と上る。初音はどこまで行くのか訝しんでコンに尋ねるが、
「着いてからのお楽しみです」と悪戯っぽく笑うばかりだった。
どれだけ歩いたのだろう。前方から光が差し込んでいる。ここが、コンの言う「見せたいもの」がある場所だということは直感で分かった。
一歩足を踏み入れた途端、初音は息を呑んだ。
そこは、村を一望できる高台だった。
傾きかけた日の光が、天と地を結ぶ柱となって幻想的な光景を創り出している。
「綺麗……」
「昔、大切な人と一緒に見つけた思い出の場所なのです」
コンは遠くを見るような目になっていた。昔というからには、きっと何十年、何百年も前のことなのだろう。
「その人のこと、少し聞いてもいい?」
それほど時が経ってもコンの記憶に残り続け、尚且つ彼女に「大切な人」と言わしめた顔も知らない誰かに、初音はちょっと嫉妬していた。
「はい。とっても活発で、私を色々な所に連れ出してくださった方です。出来ることならもう一度お会いしたいのですが……」
それきりコンは口をつぐんでしまった。
初音はその横顔を見つめる。自分もたとえお婆さんになり土に還った後でも、彼女の心に居つくことが出来るのだろうかと、そんなことを考えた。
お盆も始まろうとしていた日の朝である。
言って、聖母のような笑みを浮かべる。
初音は涙腺が緩むのを感じた。可愛らしい見た目をしているけれども、やはりコンは海千山千の狐。自分より何倍も大人なのだと痛感した。今まで姉気取りで彼女に接してきた自分が、急に恥ずかしくなってきた。と同時に、もっと彼女に頼って、甘えてもいいのだと思うと随分と気が楽になった。
「ありがとう。私、絶対また来るから」
注意していたのに、語尾が裏返ってしまった。
「泣かないでください。初音さんに涙は似合いませんよ」
こんな恥ずかしいセリフを億面も無く発することが出来るのも、彼女の魅力の一つである。
「今日は是非初音さんにお見せしたいものがあるのです」
コンはすく、と立ち上がり、初音の手を引いて歩きだした。
けもの道を延々と上る。初音はどこまで行くのか訝しんでコンに尋ねるが、
「着いてからのお楽しみです」と悪戯っぽく笑うばかりだった。
どれだけ歩いたのだろう。前方から光が差し込んでいる。ここが、コンの言う「見せたいもの」がある場所だということは直感で分かった。
一歩足を踏み入れた途端、初音は息を呑んだ。
そこは、村を一望できる高台だった。
傾きかけた日の光が、天と地を結ぶ柱となって幻想的な光景を創り出している。
「綺麗……」
「昔、大切な人と一緒に見つけた思い出の場所なのです」
コンは遠くを見るような目になっていた。昔というからには、きっと何十年、何百年も前のことなのだろう。
「その人のこと、少し聞いてもいい?」
それほど時が経ってもコンの記憶に残り続け、尚且つ彼女に「大切な人」と言わしめた顔も知らない誰かに、初音はちょっと嫉妬していた。
「はい。とっても活発で、私を色々な所に連れ出してくださった方です。出来ることならもう一度お会いしたいのですが……」
それきりコンは口をつぐんでしまった。
初音はその横顔を見つめる。自分もたとえお婆さんになり土に還った後でも、彼女の心に居つくことが出来るのだろうかと、そんなことを考えた。
お盆も始まろうとしていた日の朝である。